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暁と夕の詩

著者:立原道造

あかつきとゆうべのうた - たちはら みちぞう

文字数:2,529 底本発行年:1971
著者リスト:
著者立原 道造
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序章-章なし

※(ローマ数字1、1-13-21) 或る風に寄せて

おまへのことでいつぱいだつた 西風よ

たるんだ唄のうたひやまない 雨の昼に

とざした窗のうすあかりに

さびしい思ひを噛みながら

おぼえてゐた おののきも 顫へも

あれは見知らないものたちだ……

夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て

あれはもう たたまれて 心にかかつてゐる

おまへのうたつた とほい調べだ――

誰がそれを引き出すのだらう 誰が

それを忘れるのだらう……さうして

夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に

そそがれて来るうすやみのなかに

おまへは 西風よ みんななくしてしまつた と

[#改ページ]

※(ローマ数字2、1-13-22) やがて秋……

やがて 秋が 来るだらう

夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ

樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに

あらはなかげをくらく夜の方に投げ

すべてが不確かにゆらいでゐる

かへつてしづかなあさい吐息にやうに……

(昨日でないばかりに それは明日)と

僕らのおもひは ささやきかはすであらう

――秋が かうして かへつて来た

さうして 秋がまた たたずむ と

ゆるしを乞ふ人のやうに……

やがて忘れなかつたことのかたみに

しかし かたみなく 過ぎて行くであらう

秋は……さうして……ふたたびある夕ぐれに――

[#改ページ]

※(ローマ数字3、1-13-23) 小譚詩

一人はあかりをつけることが出来た

そのそばで 本をよむのは別の人だつた

しづかな部屋だから 低い声が

それが隅の方にまで よく聞えた(みんなはきいてゐた)

一人はあかりを消すことが出来た

そのそばで 眠るのは別の人だつた

序章-章なし
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暁と夕の詩 - 情報

暁と夕の詩

あかつきとゆうべのうた

文字数 2,529文字

著者リスト:
著者立原 道造

底本 立原道造全集 第1卷 詩集Ⅰ

青空情報


底本:「立原道造全集 第1卷 詩集1[#「1」はローマ数字、1-13-21]」角川書店
   1971(昭和46)年6月20日初版発行
入力:八巻美恵
1997年9月11日公開
2005年11月10日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:暁と夕の詩

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