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青水仙、赤水仙

著者:夢野久作

あおずいせん、あかずいせん - かいじゃく らんぺい

文字数:1,340 底本発行年:1992
著者リスト:
著者海若 藍平
著者夢野 久作
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序章-章なし

うた子さんは友達に教わって、水仙の根を切り割って、赤い絵の具と青い絵の具を入れて、お庭の隅に埋めておきました。 早く芽が出て、赤と青の水仙の花が咲けばいいと、毎日水をやっておりましたが、いつまでも芽が出ません。

ある日、学校から帰ってすぐにお庭に来てみると、大変です。 お父様がお庭中をすっかり掘り返して、畠にしておいでになります。 そうしてうた子さんを見ると、

「やあ、うた子か。 お父さんはうっかりして悪い事をした。 お前の大切な水仙を二つともくわで半分に切ってしまったから、裏の草原くさはらへ棄ててしまった。 勘弁してくれ。 その代り、今度水仙の花が咲く頃になったら、大きな支那水仙を買ってやるから」

とおあやまりになりました。

うた子さんは泣きたいのをやっと我慢して、裏の草原くさはらを探しましたが、もう見つかりませんでした。 そうしてその晩蒲団ふとんの中で、「支那水仙は要らない。 あの水仙が可愛いそうだ。 もう水をやる事が出来ないのか」といろいろ考えながら泣いて寝ました。

あくる日、学校から帰る時にうた子さんは、「もううちへ帰っても、水仙に水をやる事が出来ないからつまらないなあ」とシクシク泣きながら帰って来ますと、途中で二人の綺麗なお嬢さんが出て来て、なれなれしくそばへ寄って、

「あなた、なぜ泣いていらっしゃるの」

とたずねました。 うた子さんがわけを話すと、それでは私たちと遊んで下さいましなと親切に云いながら、連れ立っておうちへ帰りました。

二人はほんとに静かな音なしい児でした。 顔色は二人共雪のように白く、おさげに黄金の稲飾りを付けて、一人は赤の、一人は青のリボンを結んでおりました。 うた子さんはすこし不思議に思って尋ねました。

「あなたたちはそんな薄い緑色の着物を着て、寒くはありませんか」

「いいえ、ちっとも」

「お名前は何とおっしゃるの」

「花子、玉子と申します」

「どこにいらっしゃるのですか」

二人は顔を見合わせてにっこり笑いました。

「この頃御近所に来たのです。 どうぞ遊んで下さいましね」

うた子さんはそれから毎日、三人で温順おとなしく遊びました。 本を見たり、絵や字をかいたり、お手玉をしたりして日が暮れると、二人は揃って、

「さようなら」

と帰って行きました。 お母さんは、

「ほんとに温順おとなしい、品のいいお嬢さんですこと。 うた子と遊んでいると、うちにいるかいないかわからない位ですわね」

とお父さんと話し合って喜んでおいでになりました。

そのうちにお正月になりました。

序章-章なし
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青水仙、赤水仙 - 情報

青水仙、赤水仙

あおずいせん、あかずいせん

文字数 1,340文字

著者リスト:
著者海若 藍平
著者夢野 久作

底本 夢野久作全集1

青空情報


底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※この作品は初出時に署名「海若藍平(かいじゃくらんぺい)」で発表されたことが解題に記載されています。
入力:柴田卓治
校正:もりみつじゅんじ
2000年1月19日公開
2003年10月24日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:青水仙、赤水仙

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