オシャベリ姫
著者:夢野久作
オシャベリひめ - かぐつち みどり
文字数:24,506 底本発行年:1992
ある国に王様がありまして、夫婦の間にたった一人、オシャベリ姫というお姫さまがありました。
このお姫様は大層美しいお姫様でしたが、どうしたものか生れ付きおしゃべりで、朝から晩まで何かしらシャベッていないと気もちがわるいので、おまけにそれを又きいてやる人がいないと大層御機嫌がわるいのです。
ある朝のこと、このオシャベリ姫は眼をさまして顔を洗うと、すぐに両親の王様とお
「お父様お母様、
「まあ、それからどうしたの」
と王様とお
「それからね……妾はしかたがありませんから、
「なぜその時にお前は大きな声で呼ばなかった」
「だって、その宝物をみんな妾に持たせて運ばせながら、黒ん坊は短刀を持ってそばに付いているのですもの」
「フーム。 それは大変だ。 すぐに兵隊に追っかけさせなくては。 しかしお前はそれからどうした」
「やっとそれが済んだら、黒ん坊は妾の胸に又短刀をつきつけて今度は、オレのお嫁になれって云うんですの」
「エーッ。 それでお前はどうした」
「あたしはどうしようかと思っていましたら……眼がさめちゃったの」
「何……どうしたと」
「それがすっかり夢なのですよ」
「馬鹿……この馬鹿姫め。 夢なら夢となぜ早く云わないのか」
と王様は大層腹をお立てになりました。
「まあ。 それでも夢でよかった。 あたし、どんなに心配したかしれない」
とお妃さまもほっとため息をつきました。
「オホホホホホ。
まあ、おききなさい。
それからね、わたしは眼をさまして見ますと、まだ夜が明けないで真暗なんでしょう。
あたしは何だか本当に黒ん坊が来そうになってこわくなりましたから、ソッと起き上って次の
「憎い奴だ。
お前の番をする役目なのにどこに行っていたのであろう。
と王様は又も大層腹をお立てになりました。
「それがねえ、お父様。
お叱りになってはいけないのですよ。
妾もどこに行ったろうと思って探して見ると、二人とも
「何、糸を?」