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著者:石川啄木

し - いしかわ たくぼく

文字数:11,282 底本発行年:1967
著者リスト:
著者石川 啄木
親本: 初版本
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序章-章なし

啄木鳥

いにしへ聖者が雅典アデンの森にきし、

光ぞ絶えせぬみ空の『愛の火』もて

にたる巨鐘おほがね無窮むきゆうのその声をぞ

染めなす『緑』よ、げにこそ霊の住家。

聞け、今、巷にあへげるちり疾風はやち

よせ来て、若やぐ生命いのちの森の精の

きよきを攻むやと、終日ひねもす啄木鳥きつつきどり

巡りて警告いましめ夏樹なつきずゐにきざむ。

きしは三千年みちとせ永劫えいごふなほすすみて

つきざる『時』の、無象の白羽の跡

追ひ行く不滅の教よ。 ――プラトオ、汝が

浄きを高きを天路のはえと云ひし

霊をぞ守りて、この森不断のかて

くしかるつとめを小さき鳥のすなる。

隠沼

夕影しづかにつがひ白鷺しらさぎ下り、

まきの葉れたる樹下こした隠沼こもりぬにて、

あこがれ歌ふよ。 ――『そのかみ、よろこび、そは

朝明あさあけ、光の揺籃ゆりごに星と眠り、

悲しみ、なれこそとこしへ此処ここちて、

我がふくめる泥土ひづちけ沈みぬ。』 ――

愛の羽寄り添ひ、青瞳せいどううるむ見れば、

築地ついぢの草床、涙を我もれつ。

あふげば、夕空さびしき星めざめて、

しぬびの光よ、あやなきゆめごとく、

ほそ糸ほのかに水底みぞこくさりひける。

哀歓かたみの輪廻めぐりなほも堪へめ、

泥土ひづちに似る身ぞ。 ああさは我が隠沼、

かなしみみ去る鳥さへえこそ来めや。

マカロフ提督追悼の詩

(明治三十七年四月十三日、我が東郷大提督の艦隊大挙して旅順港口に迫るや、敵将マカロフ提督これを迎撃せむとし、倉皇さうくわうれいを下して其旗艦ペトロパフロスクを港外に進めしが、武運やつたなかりけむ、我が沈設水雷に触れて、巨艦一爆、提督もまた艦と運命を共にしぬ。)

嵐よもだせ、やみ打つそのつばさ

夜の叫びも荒磯ありその黒潮も、

潮にみなぎる鬼哭きこく啾々しうしう

序章-章なし
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詩 - 情報

文字数 11,282文字

著者リスト:
著者石川 啄木

底本 日本文学全集 12 国木田独歩 石川啄木集

親本 初版本

青空情報


底本:「日本文学全集 12 国木田独歩 石川啄木集」集英社
   1967(昭和42)年9月7日初版
   1972(昭和47)年9月10日9版
親本:初版本
入力:j.utiyama
校正:八巻美惠
1998年11月11日公開
2005年12月2日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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