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悲しき玩具

著者:石川啄木

かなしきがんぐ - いしかわ たくぼく

文字数:5,901 底本発行年:1912
著者リスト:
著者:石川 啄木
親本: 悲しき玩具
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序章-章なし

呼吸(いき)すれば、

胸の中(うち)にて鳴る音あり。

凩(こがらし)よりもさびしきその音(おと)!

眼(め)閉(と)づれど、

心にうかぶ何もなし。

さびしくも、また、眼をあけるかな。

途中にてふと気が変り、

つとめ先を休みて、今日も、

河岸(かし)をさまよへり。

咽喉(のど)がかわき、

まだ起きてゐる果物屋(くだものや)を探しに行きぬ。

秋の夜ふけに。

遊びに出(で)て子供かへらず、

取り出して

走らせて見る玩具(おもちや)の機関車。

本を買ひたし、本を買ひたしと、

あてつけのつもりではなけれど、

妻に言ひてみる。

旅を思ふ夫(をっと)の心!

叱(しか)り、泣く、妻子(つまこ)の心!

朝の食卓!

家(いへ)を出て五町ばかりは、

用のある人のごとくに

歩いてみたれど――

痛む歯をおさへつつ、

日が赤赤(あかあか)と、

冬の靄(もや)の中にのぼるを見たり。

いつまでも歩いてゐねばならぬごとき

思ひ湧(わ)き来(き)ぬ、

深夜の町町(まちまち)。

なつかしき冬の朝かな。

湯をのめば、

湯気(ゆげ)がやはらかに、顔にかかれり。

何(なん)となく、

今朝(けさ)は少しく、わが心明るきごとし。

手の爪(つめ)を切る。

うっとりと

本の挿絵(さしゑ)に眺め入(い)り、

煙草(たばこ)の煙吹きかけてみる。

序章-章なし
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悲しき玩具 - 情報

悲しき玩具

かなしきがんぐ

文字数 5,901文字

著者リスト:
著者:石川 啄木

底本 日本文学全集12 国木田独歩・石川啄木集

親本 悲しき玩具

青空情報


底本:「日本文学全集12 国木田独歩・石川啄木集」集英社
   1967(昭和42)年9月7日初版発行
   1972(昭和47)年9月10日9版発行
入力:j.utiyama
校正:浜野智
1998年8月3日公開
2005年11月23日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:悲しき玩具

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