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二百十日

著者:夏目漱石

にひゃくとおか - なつめ そうせき

文字数:29,368 底本発行年:1971
著者リスト:
著者夏目 漱石
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序章-章なし

ぶらりと両手をげたまま、けいさんがどこからか帰って来る。

「どこへ行ったね」

「ちょっと、町を歩行あるいて来た」

「何かるものがあるかい」

「寺が一軒あった」

「それから」

銀杏いちょうが一本、門前もんぜんにあった」

「それから」

銀杏いちょうの樹から本堂まで、一丁半ばかり、石が敷き詰めてあった。 非常に細長い寺だった」

這入はいって見たかい」

「やめて来た」

「そのほかに何もないかね」

「別段何もない。 いったい、寺と云うものは大概の村にはあるね、君」

「そうさ、人間の死ぬ所には必ずあるはずじゃないか」

「なるほどそうだね」と圭さん、首をひねる。 圭さんは時々妙な事に感心する。 しばらくして、ねった首を真直まっすぐにして、圭さんがこう云った。

「それから鍛冶屋かじやの前で、馬のくつえるところを見て来たが実にたくみなものだね」

「どうも寺だけにしては、ちと、時間が長過ぎると思った。 馬の沓がそんなに珍しいかい」

「珍らしくなくっても、見たのさ。 君、あれに使う道具が幾通りあると思う」

「幾通りあるかな」

「あてて見たまえ」

「あてなくってもいから教えるさ」

「何でも七つばかりある」

「そんなにあるかい。 何と何だい」

「何と何だって、たしかにあるんだよ。 第一爪をはがすのみと、鑿をたたつちと、それから爪をけずる小刀と、爪をえぐみょうなものと、それから……」

「それから何があるかい」

「それから変なものが、まだいろいろあるんだよ。 第一馬のおとなしいには驚ろいた。 あんなに、削られても、刳られても平気でいるぜ」

「爪だもの。 人間だって、平気で爪をるじゃないか」

序章-章なし
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二百十日 - 情報

二百十日

にひゃくとおか

文字数 29,368文字

著者リスト:
著者夏目 漱石

底本 夏目漱石全集3

親本 筑摩全集類聚版夏目漱石全集

青空情報


底本:「夏目漱石全集3」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年12月1日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年4月〜1972(昭和47)年1月
入力:柴田卓治
校正:伊藤時也
1999年2月19日公開
2004年2月27日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:二百十日

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