おじいさんのランプ
著者:新美南吉
おじいさんのランプ - にいみ なんきち
文字数:11,843 底本発行年:1996
かくれんぼで、倉の
それは珍らしい形のランプであった。
八十
そこでみんなは、昔の鉄砲とまちがえてしまった。
「何だア、鉄砲かア」と鬼の
東一君のおじいさんも、しばらくそれが何だかわからなかった。
ランプであることがわかると、東一君のおじいさんはこういって子供たちを
「こらこら、お前たちは何を持出すか。
まことに子供というものは、黙って遊ばせておけば何を持出すやらわけのわからん、油断もすきもない、ぬすっと
こうして叱られると子供ははじめて、自分がよくない行いをしたことがわかるのである。 そこで、ランプを持出した東一君はもちろんのこと、何も持出さなかった近所の子供たちも、自分たちみんなで悪いことをしたような顔をして、すごすごと外の道へ出ていった。
外には、春の昼の風が、ときおり道のほこりを吹立ててすぎ、のろのろと牛車が通ったあとを、白い
そこで子供たちは、ポケットの中のラムネ玉をカチカチいわせながら、広場の方へとんでいった。 そしてまもなく自分たちの遊びで、さっきのランプのことは忘れてしまった。
日ぐれに東一君は家へ帰って来た。
奥の
夕御飯のあとの退屈な時間が来た。
東一君はたんすにもたれて、ひき出しのかんをカタンカタンといわせていたり、店に出てひげを
そういうことにも飽くと、また奥の居間にもどって来て、おじいさんがいないのを見すまして、ランプのそばへにじりより、そのほやをはずしてみたり、五銭
すこしいっしょうけんめいになっていじくっていると、またおじいさんにみつかってしまった。
けれどこんどはおじいさんは叱らなかった。
ねえやにお茶をいいつけておいて、すっぽんと
「東坊、このランプはな、おじいさんにはとてもなつかしいものだ。
長いあいだ忘れておったが、きょう東坊が倉の隅から持出して来たので、また昔のことを思い出したよ。
こうおじいさんみたいに年をとると、ランプでも何でも昔のものに出合うのがとても
東一君はぽかんとしておじいさんの顔を見ていた。
おじいさんはがみがみと叱りつけたから、
「ひとつ昔の話をしてやるから、ここへ来て
とおじいさんがいった。
東一君は話が好きだから、いわれるままにおじいさんの前へいって坐ったが、何だかお説教をされるときのようで、いごこちがよくないので、いつもうちで話をきくときにとる姿勢をとって聞くことにした。
つまり、寝そべって両足をうしろへ立てて、ときどき足の裏をうちあわせる