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著者:新美南吉

きつね - にいみ なんきち

文字数:6,230 底本発行年:1996
著者リスト:
著者新美 南吉
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序章-章なし

月夜に七人の子供が歩いておりました。

大きい子供も小さい子供もまじっておりました。

月は、上から照らしておりました。 子供たちの影は短かくべたにうつりました。

子供たちはじぶんじぶんの影を見て、ずいぶん大頭で、足が短いなあと思いました。

そこで、おかしくなって、笑い出す子もありました。 あまりかっこうがよくないので二、三歩はしって見る子もありました。

こんな月夜には、子供たちは何か夢みたいなことを考えがちでありました。

子供たちは小さい村から、半里ばかりはなれた本郷ほんごうへ、夜のお祭を見にゆくところでした。

切通しをのぼると、かそかな春の夜風にのって、ひゅうひゃらりゃりゃと笛のが聞えて来ました。

子供たちの足はしぜんにはやくなりました。

すると一人の子供がおくれてしまいました。

文六ぶんろくちゃん、早く来い」

とほかの子供が呼びました。

文六ちゃんは月の光でも、やせっぽちで、色の白い、眼玉の大きいことのわかる子供です。 できるだけいそいでみんなに追いつこうとしました。

「んでもおれ、おっちゃんの下駄げただもん」

と、とうとう鼻をならしました。 なるほど細長いあしのさきには大きな、大人おとなの下駄がはかれていました。

本郷にはいるとまもなく、道ばたに下駄屋さんがあります。

子供たちはその店にはいってゆきました。 文六ちゃんの下駄を買うのです。 文六ちゃんのお母さんに頼まれたのです。

「あののイ、小母おばさん」

と、義則よしのり君が口をとがらして下駄屋の小母さんにいいました。

「こいつのイ、樽屋たるやせいさの子供だけどのイ、下駄を一足やっとくれや。 あとから、おっ母さんがぜにもってくるげなで」

みんなは、樽屋の清さの子供がよく見えるように、まえへ押しだしました。 それは文六ちゃんでした。 文六ちゃんは二つばかりばたきしてつっ立っていました。

小母さんは笑い出して、下駄をたなからおろしてくれました。

どの下駄が足によくあうかは、足にあてて見なければわかりません。 義則君が、お父さんか何ぞのように、文六ちゃんの足に下駄をあてがってくれました。 何しろ文六ちゃんは、一人きりの子供で、甘えん坊でした。

ちょうど文六ちゃんが、新しい下駄をはいたときに、腰のまがったおばあさんが下駄屋さんにはいって来ました。 そしてお婆さんはふとこんなことをいうのでした。

「やれやれ、どこの子だか知らんが、晩げに新しい下駄をおろすときつねがつくというだに」

序章-章なし
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狐 - 情報

きつね

文字数 6,230文字

著者リスト:
著者新美 南吉

底本 新美南吉童話集

青空情報


底本:「新美南吉童話集」岩波文庫、岩波書店
   1996(平成8)年7月16日発行第1刷
入力:浜野智
校正:浜野智
1999年6月3日公開
2004年2月22日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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