• URLをコピーしました!

花のき村と盗人たち

著者:新美南吉

はなのきむらとぬすびとたち - にいみ なんきち

文字数:9,652 底本発行年:1986
著者リスト:
著者新美 南吉
0
0
0


むかし、はなのきむらに、五人組にんぐみ盗人ぬすびとがやってました。

それは、若竹わかたけが、あちこちのそらに、かぼそく、ういういしい緑色みどりいろをのばしている初夏しょかのひるで、松林まつばやしでは松蝉まつぜみが、ジイジイジイイといていました。

盗人ぬすびとたちは、きたからかわ沿ってやってました。 はなのきむらぐちのあたりは、すかんぽやうまごやしのえたみどり野原のはらで、子供こどもうしあそんでおりました。 これだけをても、このむら平和へいわむらであることが、盗人ぬすびとたちにはわかりました。 そして、こんなむらには、おかねやいい着物きものったいえがあるにちがいないと、もうよろこんだのでありました。

かわやぶしたながれ、そこにかかっている一つの水車すいしゃをゴトンゴトンとまわして、むら奥深おくふかくはいっていきました。

やぶのところまでると、盗人ぬすびとのうちのかしらが、いいました。

「それでは、わしはこのやぶのかげでっているから、おまえらは、むらのなかへはいっていって様子ようすい。 なにぶん、おまえらは盗人ぬすびとになったばかりだから、へまをしないようにをつけるんだぞ。 かねのありそうないえたら、そこのいえのどのまどがやぶれそうか、そこのいえいぬがいるかどうか、よっくしらべるのだぞ。 いいか釜右ヱ門かまえもん。」

「へえ。」

釜右ヱ門かまえもんこたえました。 これは昨日きのうまでたびあるきの釜師かましで、かま茶釜ちゃがまをつくっていたのでありました。

「いいか、海老之丞えびのじょう。」

「へえ。」

海老之丞えびのじょうこたえました。 これは昨日きのうまで錠前屋じょうまえやで、家々いえいえくら長持ながもちなどのじょうをつくっていたのでありました。

「いいか角兵ヱかくべえ。」

「へえ。」

とまだ少年しょうねん角兵ヱかくべえこたえました。 これは越後えちごから角兵ヱ獅子かくべえじしで、昨日きのうまでは、家々いえいえしきいそとで、逆立さかだちしたり、とんぼがえりをうったりして、一もんもんぜにもらっていたのでありました。

「いいか鉋太郎かんなたろう。」

「へえ。」

鉋太郎かんなたろうこたえました。 これは、江戸えどから大工だいく息子むすこで、昨日きのうまでは諸国しょこくのおてら神社じんじゃもんなどのつくりをまわり、大工だいく修業しゅぎょうしていたのでありました。

「さあ、みんな、いけ。 わしは親方おやかただから、ここで一服いっぷくすいながらまっている。」

そこで盗人ぬすびと弟子でしたちが、釜右ヱ門かまえもん釜師かましのふりをし、海老之丞えびのじょう錠前屋じょうまえやのふりをし、角兵ヱかくべえ獅子ししまいのようにふえをヒャラヒャラらし、鉋太郎かんなたろう大工だいくのふりをして、はなのきむらにはいりこんでいきました。

かしらは弟子でしどもがいってしまうと、どっかとかわばたのくさうえこしをおろし、弟子でしどもにはなしたとおり、たばこをスッパ、スッパとすいながら、盗人ぬすびとのようなかおつきをしていました。 これは、ずっとまえからつけや盗人ぬすびとをしてたほんとうの盗人ぬすびとでありました。

「わしも昨日きのうまでは、ひとりぼっちの盗人ぬすびとであったが、今日きょうは、はじめて盗人ぬすびと親方おやかたというものになってしまった。 だが、親方おやかたになってると、これはなかなかいいもんだわい。 仕事しごと弟子でしどもがしててくれるから、こうしてころんでっておればいいわけである。」

とかしらは、することがないので、そんなつまらないひとりごとをいってみたりしていました。

やがて弟子でし釜右ヱ門かまえもんもどってました。

「おかしら、おかしら。」

かしらは、ぴょこんとあざみのはなのそばからからだこしました。

━ おわり ━  小説TOPに戻る
0
0
0
読み込み中...
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
シェア

花のき村と盗人たち - 情報

花のき村と盗人たち

はなのきむらとぬすびとたち

文字数 9,652文字

著者リスト:
著者新美 南吉

底本 ごんぎつね・夕鶴 少年少女日本文学館第十五巻

青空情報


底本:「ごんぎつね・夕鶴 少年少女日本文学館第十五巻」講談社
   1986(昭和61)年4月18日第1刷発行
   1993(平成5)年2月25日第13刷発行
初出:「花のき村と盗人たち」帝国教育会出版部
   1943(昭和18)年9月30日
入力:田浦亜矢子
校正:もりみつじゅんじ
1999年10月25日公開
2012年5月8日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:花のき村と盗人たち

小説内ジャンプ
コントロール
設定
しおり
おすすめ書式
ページ送り
改行
文字サイズ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!