ごん狐
著者:新美南吉
ごんぎつね - にいみ なんきち
文字数:4,792 底本発行年:1996
一
これは、
むかしは、私たちの村のちかくの、
その中山から、少しはなれた山の中に、「ごん
雨があがると、ごんは、ほっとして穴からはい出ました。
空はからっと晴れていて、
ごんは、村の
ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。 ごんは、見つからないように、そうっと草の深いところへ歩きよって、そこからじっとのぞいてみました。
「
しばらくすると、兵十は、はりきり網の一ばんうしろの、袋のようになったところを、水の中からもちあげました。 その中には、芝の根や、草の葉や、くさった木ぎれなどが、ごちゃごちゃはいっていましたが、でもところどころ、白いものがきらきら光っています。 それは、ふというなぎの腹や、大きなきすの腹でした。 兵十は、びくの中へ、そのうなぎやきすを、ごみと一しょにぶちこみました。 そして、また、袋の口をしばって、水の中へ入れました。
兵十はそれから、びくをもって川から
兵十がいなくなると、ごんは、ぴょいと草の中からとび出して、びくのそばへかけつけました。
ちょいと、いたずらがしたくなったのです。
ごんはびくの中の魚をつかみ出しては、はりきり網のかかっているところより
一ばんしまいに、太いうなぎをつかみにかかりましたが、何しろぬるぬるとすべりぬけるので、手ではつかめません。 ごんはじれったくなって、頭をびくの中につッこんで、うなぎの頭を口にくわえました。 うなぎは、キュッと言ってごんの首へまきつきました。 そのとたんに兵十が、向うから、
「うわアぬすと狐め」と、どなりたてました。 ごんは、びっくりしてとびあがりました。 うなぎをふりすててにげようとしましたが、うなぎは、ごんの首にまきついたままはなれません。 ごんはそのまま横っとびにとび出して一しょうけんめいに、にげていきました。
ほら穴の近くの、はんの木の下でふりかえって見ましたが、兵十は追っかけては来ませんでした。