一寸法師
著者:江戸川乱歩
いっすんぼうし - えどがわ らんぽ
文字数:95,861 底本発行年:1927
作者の言葉
私は探偵小説を書くのですが、探偵小説といっても、現在では色々の傾向に分れていて、昔の探偵小説という感じからは非常に遠いものもあるのです。
私が書きますものは、それは完結して見なければ分らないのですが、恐らく本格探偵小説といわれているものには当らず、そうかといって、もっとも新しい傾向である、いわばモダン型でもなく、やっぱり私好みの古臭い怪奇の世界を
そこで、もし始めてこの種の小説をお読みになる読者があったなら、私のものだけによって、今の探偵小説とはこんなものかなんておっしゃらないで、もっと外の傾向のものをも合せ読まれんことを希望致すのであります。
大正十五年十二月七日「東京朝日新聞」
[#改ページ]
死人の腕
半町も歩くと薄暗い公園の入口だった。
そこの広い
「さて帰るかな、だが帰ったところで仕方がないな」
彼は部屋を借りている家のヒッソリした空気を思い出すと、何だか帰る気がしなかった。
それに春の夜の
この公園は、歩いても歩いても見尽すことのできない不思議な魅力をもっていた。
フト
彼は公園を横断する真暗な大通を歩いて行った。
右の方はいくつかの広っ
「大将、大将」
気がつくと右の方の闇の中から誰かが彼を呼びかけていた。 妙に押し殺したような声だった。
「ナニ」
紋三はホールド・アップにでも出っ会したほど
「大将、ちょっとちょっと、
「ソレ、何です」
「エヘヘヘ……御存知の
男はキョロキョロと
作者の言葉
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
一寸法師 - 情報
青空情報
底本:「江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚」光文社文庫、光文社
2004(平成16)年8月20日初版1刷発行
底本の親本:「創作探偵小説集第七巻」春陽堂
1927(昭和2)年3月20日発行
初出:「東京朝日新聞」朝日新聞社
1926(大正15)年12月8日〜1927(昭和2)年2月20日
「大阪朝日新聞」朝日新聞社
1926(大正15)年12月8日〜1927(昭和2)年2月21日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※「キューピー人形」と「キューピイ人形」の混在は、底本通りです。
※誤植を疑った箇所を、底本の親本の表記にそって、あらためました。
※底本巻末の編者による註釈は省略しましたが、「安来節(やすきぶし)」「御園(みその)館」「吾妻橋(あづまばし)」「中(なか)の郷(ごう)」「千住町(せんじゅまち)中組(なかぐみ)」「精養軒(せいようけん)」「上海(シャンハイ)」「伯龍(はくりゅう)」「小梅町(こうめちょう)」「厩橋(うまやばし)」「片町(かたまち)」「三囲(みめぐり)」「仁王門(におうもん)」「瓢箪池(ひょうたんいけ)」「合羽橋(かっぱばし)」「原庭署(はらにわしょ)」「曳舟(ひきふね)」「花屋敷(はなやしき)」「浅草(あさくさ)」「生(いき)人形」のルビは註釈より入力者が追加しました。
入力:nami
校正:まつもこ
2017年9月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:一寸法師