目羅博士の不思議な犯罪
著者:江戸川乱歩
めらはかせのふしぎなはんざい - えどがわ らんぽ
文字数:15,354 底本発行年:1931
一
私は探偵小説の
ところで、お話は、やっぱりその、原稿の
もう夕方で、閉館時間が迫って来て、見物達は大抵帰ってしまい、館内はひっそり
芝居や寄席なぞでもそうだが、最後の幕はろくろく見もしないで、
動物園でもその通りだ。
東京の人は、なぜか帰りいそぎをする。
まだ門が閉った
私は猿の
猿共も、からかって呉れる
あたりが余りに静かだったので、
それは髪を長く延ばした、青白い顔の青年で、折目のつかぬ服を着た、
よく動物園に来るものと見えて、猿をからかうのが手に
「猿ってやつは、どうして、相手の真似をしたがるのでしょうね」
男が、ふと私に話しかけた。
彼はその時、
私が笑って見せると、男は又
「真似って云うことは、考えて見ると
私は、この男、哲学者ルンペンだなと思った。
「猿が真似するのはおかしいけど、人間が真似するのはおかしくありませんね。 神様は人間にも、猿と同じ本能を、いくらかお与えなすった。 それは考えて見ると怖いですよ。 あなた、山の中で大猿に出会った旅人の話をご存じですか」
男は話ずきと見えて、段々口数が多くなる。
私は、人見知りをする
「知りません。 大猿がどうかしたのですか」
私は進んで相手の話を聞こうとした。
「人里離れた
一
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目羅博士の不思議な犯罪 - 情報
青空情報
底本:「江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪」光文社文庫、光文社
2004(平成16)年6月20日初版1刷発行
底本の親本:「江戸川乱歩全集 第五巻」平凡社
1931(昭和6)年7月
初出:「文藝倶楽部 探偵小説と滑稽小説号」博文館
1931(昭和6)年4月増刊
※底本巻末の平山雄一氏による註釈は省略しました。
入力:金城学院大学 電子書籍制作
校正:まつもこ
2019年10月28日作成
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青空文庫:目羅博士の不思議な犯罪