お勢登場
著者:江戸川乱歩
おせいとうじょう - えどがわ らんぽ
文字数:11,698 底本発行年:1926
一
肺病やみの
「なぜ兄さんは
だが、格太郎にとっては、単に憐みという様なことばかりではなかった。
おせいの方では、この格太郎の心持を、知り過ぎる程知っていた。
大げさに云えば、そこには暗黙の妥協に似たものが成り立っていた。
彼女は隠し男との遊戯の暇には、その余力を
「でも、子供のことを考えるとね。
そう
格太郎はそう答えて、一層弟を歯痒がらせるのを常とした。
だが、格太郎の仏心に引かえて、おせいは考え直すどころか、一日一日と、不倫の恋に
今日もおせいは、朝から念入りの身じまいをして、いそいそと出掛けて行った。
「里へ帰るのに、お化粧はいらないじゃないか」
そんないやみが、口まで出かかるのを、格太郎はじっと
細君が出て行って了うと、彼は所在なさに趣味を持ち出した
おひる時分になると、女中が御飯を知らせに来た。
「あのおひるの用意が出来ましたのですが、もうちっと
女中さえ、遠慮勝ちにいたいたし
「ああ、もうそんな時分かい。
一
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お勢登場 - 情報
青空情報
底本:「江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣」光文社文庫、光文社
2005(平成17)年11月20日初版1刷発行
底本の親本:「創作探偵小説集第四巻 湖畔亭事件」春陽堂
1926(大正15)年9月
初出:「大衆文藝」
1926(大正15)年7月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※底本巻末の平山雄一氏による註釈は省略しました。
入力:金城学院大学 電子書籍制作
校正:門田裕志
2017年8月25日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:お勢登場