ふしぎな人
著者:江戸川乱歩
ふしぎなひと - えどがわ らんぽ
文字数:43,332 底本発行年:1959
1 マントにんぎょうのまき
きむらたけしくんは、しょうがっこうの二ねん生で、とうきょうのひろいおうちにすんでいました。
おとうさんは、あるかいしゃのしゃちょうさんです。
きむらたけしくんのおうちのちかくに、ふしぎなせいようかんがあって、そこにふしぎな人がすんでいました。
二かいだてのふるいせいようかんで、そのまわりは、木のいっぱいはえたにわでかこまれていました。
このふしぎないえのふしぎな人は、
おくさんも子どももなく、たったひとりで、そのひろいせいようかんにすんでいるのです。
きんじょの人たちは、このせいようかんをばけものやしきといっていました。 また、そこにひとりですんでいる林さんを、まほうつかいとよんでいました。
ところが、きむらたけしくんのおとうさんは、このふしぎな人とだいのなかよしだったので、林さんは、たけしくんのおうちへよくあそびにきました。
おとうさんはたけしくんと、いもうとのしょうがっこう一ねん生のきみ
「林さんはかわりものだが、けっしてわるい人じゃない。 たいへんちえがあるのだよ。 そのちえで、いろいろふしぎなことをやってみせるので、まほうつかいのようにみえるだけなのさ」
たけしくんもきみ子ちゃんも、林さんとなかよしになっていました。
ある日のごご三じごろのことです。 たけしくんときみ子ちゃんは、林さんのおうちのにわであそんでいました。 たくさんの木にかこまれたひろいしばふにこしをおろして、林さんのおはなしをきいていたのです。
林さんはくろいふくをきて、大きなくろいネクタイをとんぼむすびにしていました。
ふちなしの四かくなめがねをかけ、ぴんとはねた口ひげと、三かくのあごひげがあります。 いかにもせいようのまほうつかいみたいなかっこうです。
その林さんが、こんなことをいいだしました。
「きみたちに、おもしろいものをみせてあげようか。 びっくりするようなものだよ。 わたしは、むこうの木のしげみにかくれるからね。 すると、あそこのしいの木のねもとから、小さいものがあらわれるのだ。 よくみているんだよ」
そういって、林さんは、しいの木のむこうのしげみの中へはいっていきました。
たけしくんと、きみ子ちゃんは、むねをわくわくさせながら、そのしいの木の下を、じっとみつめていました。
あたりは、しいんとしずまりかえっています。 はるのおてんきのよい日で、しばふには、日がてっています。 でも、しいの木のへんからむこうは、木のはがしげっているので、すこしうすぐらいのです。
「おじさん、なにをみせてくれるんだろうね」
たけしくんがいいますと、きみ子ちゃんは、にいさんのかおをみつめながら、「あたし、こわいわ」と、いかにもきみわるそうにささやくのでした。
すると、そのときです。 あの大きなしいの木のねもとから、なにか小さなものが、ちょこちょことはいだしてきたではありませんか。
むしでしょうか。 いや、むしにしては、大きすぎます。
しかも、それは、はっているのではなくて、二本の足であるいているのです。
それは、たかさ二十センチぐらいの、おもちゃのにんげんなのです。
1 マントにんぎょうのまき
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ふしぎな人 - 情報
青空情報
底本:「江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人」光文社文庫、光文社
2005(平成17)年3月20日初版1刷発行
底本の親本:「たのしい二年生」大日本雄弁会講談社
1958(昭和33)年8月〜1959(昭和34)年3月
「たのしい三年生」講談社
1959(昭和34)年4月〜12月
初出:「たのしい二年生」大日本雄弁会講談社
1958(昭和33)年8月〜1959(昭和34)年3月
「たのしい三年生」講談社
1959(昭和34)年4月〜12月
※「たのしい三年生」初出時の表題は「名たんていと二十めんそう」です。
※底本は、連載の回数を見出しとしています。
入力:sogo
校正:北川松生
2016年6月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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青空文庫:ふしぎな人