かいじん二十めんそう
著者:江戸川乱歩
かいじんにじゅうめんそう - えどがわ らんぽ
文字数:8,843 底本発行年:1959
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あるおひるすぎのことです。
東京のまつなみ小学校のこうていで、みんながあそんでいました。
休み時間なので、一年生から六年生まで、かけまわったり、キャッチボールをしたり、きかいたいそうをしたりして、あそんでいたのです。
「あっ、ヘリコプターだっ」
だれかがさけびました。
「ほんとだ。 ヘリコプターだ」
口々にさけびながら、みんな空を見上げました。
よくはれたまっさおな空に、ヘリコプターが小さくうかんでいました。 高くとんでいるので、のっている人のすがたは見えません。
「あっ、びらだよ。 びらをまいたよ」
また、さけび声がわきあがりました。
おお、ごらんなさい。 ヘリコプターから、さあっと、こなのようなものがふき出したかと思うと、それが、きらきらとかがやきながら、ゆっくりおちてくるのです。
おちるにつれて、こなのようなものが、すこしずつ大きくなり、それが、空いちめんにひろがってきました。
「きれいだねえ。 金色に光っているよ」
ほんとうに、そのひとつびとつが、金色に光っていました。
紙のびらではありません。 なんだかへんなものです。
「あらっ、あれ、おめんだわ。 金色のおめんよ」
女の子がさけびました。
そうです。 それは、おもちゃやでうっている、セルロイドのおめんのようなかたちをしていました。
何百という金色のおめんが、空からふってくるのです。 ちかちか、きらきらそのうつくしいこと。 子どもたちは、こんなうつくしいけしきを見たことがありませんでした。
しばらくすると、そのたくさんのおめんが、こうていのあちこちにおちてきました。
みんなは、「わあっ」と、その方へかけ出し、あらそって、金色のおめんをひろいました。
その日、学校がおわると、おなじほうがくへかえる子ども七人が、一かたまりになって歩いていました。
みんな、金色のおめんをかぶっています。 あのとき、おめんは、百いじょうもこうていへおちたのです。 みんなが、おめんをもっていても、ふしぎはありません。
それは、セルロイドを金色にぬったおめんでした。
金色にぴかぴか光ったかおが、にやりとわらっているのです。
くちびるのりょうはしが、きゅっと上へ上がった、
「きみたち、そのおめんは、なんだか知ってるかね」
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かいじん二十めんそう - 情報
青空情報
底本:「江戸川乱歩全集 第21巻 ふしぎな人」光文社文庫、光文社
2005(平成17)年3月20日初版1刷発行
底本の親本:「たのしい二年生」講談社
1959(昭和34)年10月〜1960(昭和35)年3月
初出:「たのしい二年生」講談社
1959(昭和34)年10月〜1960(昭和35)年3月
※底本は、連載の回数を見出しとしています。
入力:sogo
校正:北川松生
2016年3月4日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:かいじん二十めんそう