一人二役
著者:江戸川乱歩
ひとりふたやく - えどがわ らんぽ
文字数:6,702 底本発行年:1931
人間、退屈すると、何を始めるか知れたものではないね。
僕の知人にTという男があった。
型の如く無職の
ところで、不幸なことに、この男、
別に嫌っていたという程ではないが、といって、
さて、そのTがね、変なことを始めた話だよ。 それが実に奇想天外なんだ。 遊戯もここまで来ると、一寸凄くなるね。
誰しも感じることだろうが、自分の女房がね、自分以外の男に、つまり間男にだね、接しる時の様子をすき見したら、さぞ変な味がするだろう、……いや、実際にやられては
で、彼は何をしたかというと、ある夜のこと、頭から足の先まで、すっかり外で調えた新しい服装で、鼻の下へはチョッピリ
細君は、Tがいつもの通り、どっかで
床の中でね、彼等は電燈を消して寝る習慣だったから、真暗な床の中でだね、Tはやっと髭を押えていた手を離した。 で、つまり、当然だね、その異様な毛髪の感触が、細君を驚かせた。
「アラ、…………」
細君が、可愛らしい悲鳴を上げたのは、こりゃ決して無理はない。
同時にTとしては、ここが最も難しい所だ。
彼は細君が髭の存在を認めたことが分ると、早速向きを
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一人二役 - 情報
青空情報
底本:「江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者」光文社文庫、光文社
2004(平成16)年7月20日初版1刷発行
2012(平成24)年8月15日7刷発行
底本の親本:「江戸川乱歩全集 第六巻」平凡社
1931(昭和6)年11月
初出:「新小説」春陽堂
1925(大正14)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※底本巻末の編者による語注は省略しました。
入力:門田裕志
校正:A.K
2016年6月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:一人二役