双生児 ――ある死刑囚が教誨師にうちあけた話――
著者:江戸川乱歩
そうせいじ - えどがわ らんぽ
文字数:11,971 底本発行年:1932
先生、今日こそは御話することに決心しました。
私の死刑の日も段々近づいて来ます。
早く心にあることを
先生も御承知の様に、私は一人の男を殺して、その男の金庫から三万円の金を盗んだ
いや必要がないばかりではありません。 仮令死んで行く身にも、出来る丈け悪名を少くしたいという、虚栄心に似たものがあります。 それにこればかりはどんなことがあっても、私は妻に知らせ度くない理由があるのです。 その為に私はどれ程要らぬ苦労をしたことでしょう。 その事丈けを隠して置いたとて、どうせ死刑は免れぬと判っていますのに、法廷の厳しい御検べにも、私は口まで出かかったのを圧えつける様にして、それ丈けは白状しませんでした。
ところが、私は今、それを先生のお口から私の妻に
それは私の兄でした。
兄といっても普通の兄ではありません。
私は
彼は夜となく昼となく私を責めに来ます。
夢の中では、彼は私の胸に
私は彼を殺した翌日から鏡を恐れる様になりました。
鏡ばかりではありません。
物の姿の映るあらゆるものを恐れる様になりました。
私は
ある時などは、一軒の鏡屋の前で、私は危く卒倒しかけたことがあります。 そこには、無数の同じ男が、私の殺した男が、千の目を私の方へ集中していたのです。
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双生児 - 情報
双生児 ――ある死刑囚が教誨師にうちあけた話――
そうせいじ ――あるしけいしゅうがきょうかいしにうちあけたはなし――
文字数 11,971文字
親本 江戸川乱歩全集 第九巻
青空情報
底本:「江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者」光文社文庫、光文社
2004(平成16)年7月20日初版1刷発行
2012(平成24)年8月15日7刷発行
底本の親本:「江戸川乱歩全集 第九巻」平凡社
1932(昭和7)年3月
初出:「新青年」博文館
1924(大正13)年10月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※底本巻末の編者による語注は省略しました。
入力:門田裕志
校正:A.K.
2016年9月9日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:双生児