赤い部屋
著者:江戸川乱歩
あかいへや - えどがわ らんぽ
文字数:18,025 底本発行年:1931
異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)
七人の真中には、これも緋色の天鵞絨で
部屋の四周には、窓や入口のドアさえ残さないで、天井から床まで、
いつもながらその部屋は、私を、丁度とほうもなく大きな生物の心臓の中に坐ってでもいる様な気持にした。
私にはその心臓が、大きさに相応したのろさを
誰も物を云わなかった。 私は蝋燭をすかして、向側に腰掛けた人達の赤黒く見える影の多い顔を、何ということなしに見つめていた。 それらの顔は、不思議にも、お能の面の様に無表情に微動さえしないかと思われた。
やがて、今晩の話手と定められた新入会員のT氏は、腰掛けたままで、じっと蝋燭の火を見つめながら、次の様に話し始めた。 私は、陰影の加減で骸骨の様に見える彼の顎が、物を云う度にガクガクと物淋しく合わさる様子を、奇怪なからくり仕掛けの生人形でも見る様な気持で眺めていた。
私は、自分では確かに正気の積りでいますし、人も
初めの
そんな風で、一時私は文字通り何もしないで、ただ飯を食ったり、起きたり、寝たりするばかりの日を暮していました。
そして、頭の中
これが、私がその日その日のパンに追われる様な境遇だったら、まだよかったのでしょう。
こんな風に申上げますと、皆さんはきっと「そうだろう、そうだろう、併し世の中の事柄に退屈し切っている点では我々だって決してお前にひけを取りはしないのだ。 だからこんなクラブを作って何とかして異常な興奮を求めようとしているのではないか。 お前もよくよく退屈なればこそ、今、我々の仲間へ入って来たのであろう。 それはもう、お前の退屈していることは、今更ら聞かなくてもよく分っているのだ」とおっしゃるに相違ありません。 ほんとうにそうです。 私は何もくどくどと退屈の説明をする必要はないのでした。 そして、あなた方が、そんな風に退屈がどんなものだかをよく知っていらっしゃると思えばこそ、私は今夜この席に列して、私の変てこな身の上話をお話しようと決心したのでした。
私はこの階下のレストランへはしょっちゅう
犯罪と探偵の遊戯ですか、
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赤い部屋 - 情報
青空情報
底本:「江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者」光文社文庫、光文社
2004(平成16)年7月20日初版1刷発行
2012(平成24)年8月15日7刷発行
底本の親本:「江戸川乱歩全集 第七巻」平凡社
1931(昭和6)年12月
初出:「新青年」博文館
1925(大正14)年4月
※初出時の表題は「連続短篇探偵小説(三)」です。
※「飽き飽き」と「飽きあき」、「深切」と「親切」の混在は、底本通りです。
※底本巻末の編者による語注は省略しました。
入力:門田裕志
校正:岡村和彦
2016年6月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:赤い部屋