大岡越前
著者:吉川英治
おおおかえちぜん - よしかわ えいじ
文字数:215,630 底本発行年:1989
第一章
三人男
「犬がうらやましい。 ああ、なぜ人間なぞに生れたろう」
笑えるうちは、まだよかったが、この頃ではそんな
「何しろ、
これは、庶民とよぶ人間の群の、一致していうことばだったが、人々のあたまの中は、言葉どおりに、一致してはいなかった。
こういう時代の特徴として、各
の思想も、人生観も、三人よれば、三人。
十人よれば、十人
夏の夜である。
――
「おいおい、
「どうしたい。
「
「よくドジばかりふむ男だ。
味噌久はかまわねえが、背負わせておいた御馳走は、まさか田ン圃へ
べつな声が、闇の中で、
「ええ、ひでえことをいう。 ふたりとも身軽なくせに。 すこし荷物を代ってくれやい」
と、田の
大亀と阿能十は、おかしさやら、暗さやら、わけもなく笑いあって、
「まあ、そういうなよ。 目ざす中野はもうすぐだ。 辛抱しろ、辛抱しろ」
「だが、着物の裾をしぼらねえことにゃあ、どうにも、
「阿能。 泣きベソがまた泣いていら。 そこらで一ぷくやるとするか」
小高い雑木林の丘に、男たちは腰をおろした。
三人とも、
第一章
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大岡越前 - 情報
青空情報
底本:「大岡越前」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年8月11日第1刷発行
1991(平成3)年2月1日第3刷発行
初出:「日光」
1948(昭和23)年9月〜1949(昭和24)年12月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※「2011(平成23)年5月6日第22刷」の底本では「――あっしも、足元の明るいうちに、」は「――あっしも 足元の明るいうちに、」となっています。
入力:川山隆
校正:トレンドイースト
2013年11月5日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:大岡越前