納豆の茶漬け
著者:北大路魯山人
なっとうのちゃづけ - きたおおじ ろさんじん
文字数:1,188 底本発行年:1980
納豆の茶漬けは意想外に美味いものである。 しかも、ほとんど人の知らないところである。 食通間といえども、これを知る人は意外に少ない。 と言って、私の発明したものではないが、世上これを知らないのはふしぎである。
納豆の拵え方
ここでいう納豆の
かたく練り上げたら、醤油を数滴落としてまた練るのである。 また醤油数滴を落として練る。 要するにほんの少しずつ醤油をかけては、ねることを繰り返し、糸のすがたがなくなってどろどろになった納豆に、辛子を入れてよく攪拌する。 この時、好みによって薬味(ねぎのみじん切り)を少量混和すると、一段と味が強くなって美味い。 茶漬けであってもなくても、納豆はこうして食べるべきものである。
最初から醤油を入れてねるようなやり方は、下手なやり方である。 納豆食いで通がる人は、醤油の代りに生塩を用いる。 納豆に塩を用いるのは、さっぱりして確かに好ましいものである。 しかし、一般にはふつうの醤油を入れる方が無難なものが出来上がるであろう。
お茶潰けのやり方
そこで以上のように出来上がったものを、まぐろの茶漬けなどと同様に、茶碗に飯を少量盛った上へ、適当にのせる。 納豆の場合は、とりわけ熱飯がよい。 煎茶をかけ、納豆に混和した醤油で塩加減が足りなければ、飯の上に醤油を数滴たらすのもいい。 最初から納豆の茶漬けのためにねる時は、はじめから醤油を余計まぜた方がいい。 元来、いい味わいを持つ納豆に対して、化学調味料を加えたりするのは好ましいやり方ではない。 そうして飯の中に入れる納豆の量は、飯の四分の一程度がもっとも美味しい。 納豆は少なきに過ぎては味がわるく、多きに過ぎては口の中でうるさくて食べにくい。
これはたやすいやり方で、簡単にできるものである。 早速、秋の好ましいたべものとして、口福を満たさるべきではなかろうか。
納豆のよしあし
納豆には美味いものと不味いものとある。 不味いのは、ねっても糸をひかないで、ざくざくとしている。 それは納豆として充分に発酵していない未熟な品である。 糸をひかずに豆がざくざくぽくぽくしている。 充分にかもされている納豆は、豆の質がこまかく、豆がねちねちしていないものは、手をいかに下すとも救い難いものである。 だから、糸をひかない納豆は食べられない。 一番美味いのは、仙台、水戸などの小粒の納豆である。 神田で有名な大粒の納豆も美味い。