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三国志 11 五丈原の巻

著者:吉川英治

さんごくし - よしかわ えいじ

文字数:169,560 底本発行年:1989
著者リスト:
著者吉川 英治
底本: 三国志(八)
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中原ちゅうげんして

しょくの大軍は、※(「さんずい+眄のつくり」、第4水準2-78-28)べんよう陝西省せんせいしょう※(「さんずい+眄のつくり」、第4水準2-78-28)べんけん漢中かんちゅうの西)まで進んで出た。 ここまで来た時、

は関西の精兵を以て、長安(陝西省・西安)に布陣し、大本営をそこにおいた」

という情報が的確になった。

いわゆる天下の嶮、しょく桟道さんどうをこえて、ここまで出てくるだけでも、軍馬は一応疲れる。 孔明は、※(「さんずい+眄のつくり」、第4水準2-78-28)陽に着くと、

「ここには、亡き馬超ばちょうつかがある。 いまわが蜀軍の北伐ほくばつに遭うて、地下白骨の自己を嘆じ、なつかしくも思っているだろう。 祭をいとなんでやるがよい」

と、馬岱ばたいを祭主に命じ、あわせてその期間に、兵馬を休ませていた。

一日、魏延ぎえんが説いた。

「丞相。 それがしに、五千騎おかし下さい。 こんなことをしている間に、長安を潰滅かいめつしてみせます」

「策に依ってはだが……?」

「ここと長安の間は、長駆すれば十日で達する距離です。 もしお許しあれば、秦嶺しんれいえ、子午谷しごこくを渡り、虚を衝いて、敵を混乱に陥れ、彼の糧食を焼き払いましょう。 ――丞相は斜谷やこくから進まれ、咸陽かんようへ伸びて出られたら、魏の夏侯楙かこうもなどは、一して破り得るものと信じますが」

「いかんなあ」

孔明は取り上げない。 雑談のように軽く聞き流して、

「もし敵に智のある者がいれば、兵をまわして、山際の切所せっしょつにきまっている。 そのときご辺の五千の兵は、一人も生きては帰れないだろう」

「でも、本道を進めば、魏の大軍に対して、どれほど多くの損害を出すか知れますまい」

孔明はうなずいた。 その通りであると肯定こうていしているものの如くである。 そして彼は彼の考えどおり軍を進ませた。 隴右ろうゆうの大路へ出でて正攻法を取ったものである。

これは、魏の予想に反した。 孔明はよく智略を用いるという先入観から、さだめし奇道を取ってくるだろうと信じて、ほかの間道へも兵力を分け、大いに備えていたところが、意外にも蜀軍は堂々と直進して来た。

「まず、西※(「鬼」の「丿/田」に代えて「義−我」、第3水準1-90-28)せいきょうの兵に、一当て当てさせてみよう」

夏侯楙かこうもは、韓徳かんとくを呼んだ。 これはこんど魏軍が長安を本営としてから、西涼の※(「鬼」の「丿/田」に代えて「義−我」、第3水準1-90-28)きょうへい八万騎をひきいて、なにか一手勲ひとてがらせんと、参加した外郭軍がいかくぐんの大将だった。

鳳鳴山ほうめいざんまで出で、蜀の先鋒を防げ。 この一戦は、魏蜀の第一会戦だから、以後の士気にもかかわるぞ。 充分、功名を立てるがいい」

夏侯楙に励まされて韓徳は勇んで立った。

彼に四人の子がある。

中原ちゅうげんして

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三国志 - 情報

三国志 11 五丈原の巻

さんごくし 11 ごじょうげんのまき

文字数 169,560文字

著者リスト:
著者吉川 英治

底本 三国志(八)

青空情報


底本:「三国志(八)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
   1989(平成元)年5月11日第1刷発行
   2008(平成20)年7月1日第49刷発行
※副題には底本では、「五丈原(ごじょうげん)の巻(まき)」とルビがついています
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2013年7月11日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:三国志

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