三国志 05 臣道の巻
著者:吉川英治
さんごくし - よしかわ えいじ
文字数:154,945 底本発行年:1989
煩悩攻防戦
一
「われを呼ぶは何者か」と、わざと云った。
「君を呼ぶ者は君の好き敵である
「…………」
呂布は、沈黙していた。
河水をわたる風は白く、
「予は信じる。
君は正邪の見極めもつかないほど愚かな将軍ではないことを。
――今もし
「…………」
「それに反し、この際、
呂布は動かされた。 それまで黙然と聞いていたが、やにわに手を振り上げ、
「丞相丞相。
しばらくの間、呂布に時刻の
傍にいた陳宮は、意外な呂布の返辞に愕然として跳び上がり、
「な、なにをばかなことを仰っしゃるかっ」
と、主君の口をふさぐように、突然、横あいから大音声で曹操へ云い返した。
「やよ
言葉の終った刹那、陳宮の手に引きしぼられていた弓がぷんと
曹操は、くわっと
「陳宮ッ、忘るるな、誓って汝の首を、予の土足に踏んで、今の答えをなすぞ」
そして左右の二十騎に向って、即時、総攻撃にうつれと
「待ちたまえ、
煩悩攻防戦
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三国志 - 情報
青空情報
底本:「三国志(三)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年4月11日第1刷発行
2008(平成20)年9月16日第50刷発行
※副題には底本では、「臣道(しんどう)の巻(まき)」とルビがついています。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2013年7月11日作成
2022年6月9日修正
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