三国志 04 草莽の巻
著者:吉川英治
さんごくし - よしかわ えいじ
文字数:147,428 底本発行年:1989
巫女
一
「なに、無条件で

それのみか、不意に、兵に令を下して、
「これは乱暴だ。
和議の
楊彪が声を荒くしてとがめると、
「だまれっ。
は云い放った。
「おお、なんたることぞ! 国府の二柱たる両将軍が、一方は天子を
「おのれ、まだ
剣を抜いて、あわや楊彪を斬り捨てようとしたとき、中郎将
の手を抑えた。
楊密の
は剣を納めたけれども縛りあげた群臣はゆるさなかった。
ただ楊彪と
朱雋は、もはや老年だけに、きょうの使いには、ひどく精神的な打撃をうけた。
「ああ。 ……ああ……」
と、何度も空を仰いで、力なく歩いていたが、楊彪をかえりみて、
「お互いに、
果ては、楊彪と抱きあって、路傍に泣きたおれ、朱雋は一時
そのせいか、老人は、家に帰るとまもなく、血を吐いて死んでしまった。 楊彪が知らせを受けて馳けつけてみると、朱雋老人の額は砕けていた。 柱へ自分の頭をぶっつけて憤死したのである。
朱雋でなくとも、世の有様を眺めては、憤死したいものはたくさんあったろう。
――それから五十余日というもの、明けても暮れても、
の両軍は、毎日、巷へ兵を出して戦っていた。
戦いが仕事のように。 戦いが生活のように。 戦いが楽しみのように。 意味なく、大義なく、涙なく、彼らは戦っていた。
双方の死骸は、街路に横たわり、溝をのぞけば溝も
馬蠅の世界も、彼らの世界も、なんの変りもなかった。
――むしろ馬蠅の世界には、
「死にたい。