宮本武蔵 08 円明の巻
著者:吉川英治
みやもとむさし - よしかわ えいじ
文字数:190,792 底本発行年:1990
春告鳥
一
ここは、
武者溜りの白壁に、二月の陽がほかりと
――頼もう。 頼もう。
の訪れだの、
――大祖
だの。 また、
――てまえこそは何の
だのといって、例の石垣坂の閉まっている門を無益に叩く者が、
「どなたの
と、ここの番士は、十年一日のごとく同じ言葉で、そういう客を謝辞している。
中には、
「芸道には、貴賤の差も、名人と初心の差も、道においては、ないはずでござろうに」
などと小理窟こねて、憤々として帰る武芸者もあるが、何ぞ知らん、石舟斎はすでに去年、世に亡き人になっていた。
江戸表にある長子の但馬守
心なしか、そう思って、吉野朝以前からというここの古い
「お通さま」
奥の丸の中庭に立って、ひとりの小僧が、今、
「――お通さま。
どこにお
すると、一つの屋の障子があいた。
室の中に
「持仏堂でございます」
「お。 またそれへ」
「御用ですか」
「
「はい」
縁づたいに、また、橋廊下を越えたりして、そこから遠い兵庫の部屋へ訪ねてゆく。 ――兵庫は縁に腰かけていたが、
「オオ。 お通どの、来てくれたか、わしの代りになって、ちょっと挨拶に出てもらいたいが」
「どなたか……お客間に?」
「
春告鳥
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宮本武蔵 - 情報
青空情報
底本:「宮本武蔵(七)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1990(平成2)年1月11日第1刷発行
2002(平成14)年12月5日第37刷発行
「宮本武蔵(八)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1990(平成2)年1月11日第1刷発行
2003(平成15)年1月30日第37刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※副題は底本では、「円明(えんみょう)の巻」となっています。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2012年12月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:宮本武蔵