宮本武蔵 05 風の巻
著者:吉川英治
みやもとむさし - よしかわ えいじ
文字数:277,154 底本発行年:1989
枯野見
一
丹波街道の
「火を
と誰かいう。
春先なのだ。
まだ正月の九日という日である。
「よく燃えるな」
「火が飛ぶぞ、気をつけぬと、野火になる」
「案じ給うな。 いくら燃え拡がっても、京都中は焼けッこない」
枯れ野の一端に
「あつい、あつい」
と今度は
「もうよせ」
草を投げる者へ向って、植田良平が、煙たい顔して叱った。
そんなことをしている間に
「もうやがて、
誰かいい出して、
「さよう?」
期せずしてみなの眉が、陽を仰いでみる。
「卯の下刻。 ――もはやその時刻だが」
「どうしたろう、若先生は」
「もう来る」
「そうさ、来る頃だ」
なにか緊迫してくるものを
「どうなされたのだろう?」
のろまな声をして、どこかで牛が長く啼いた。
ここは元、禁裏のお
「――もう
「来てるかもしれん」
枯野見
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宮本武蔵 - 情報
青空情報
底本:「宮本武蔵(三)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年11月11日第1刷発行
2010(平成22)年1月5日第44刷発行
「宮本武蔵(四)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年12月11日第1刷発行
2003(平成15)年1月30日第39刷発行
「宮本武蔵(五)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年12月11日第1刷発行
2002(平成14)年10月8日第36刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2012年12月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:宮本武蔵