宮本武蔵 03 水の巻
著者:吉川英治
みやもとむさし - よしかわ えいじ
文字数:134,812 底本発行年:1989
吉岡染
一
また、信長も
人間五十年、
そういう観念は、ものを考える階級にも、ものを考えない階級にもあった。
――
(いつまたこの灯が消えることか?)
と、人々の頭の底には、永い戦乱に
慶長十年。
もう関ヶ原の役も五年前の思い出ばなしに過ぎない。
家康は将軍職を
だが、その戦後景気をほんとの泰平とは誰も信じないのである。
江戸城に二代将軍がすわっても、大坂城にはまだ、
「いずれ、また、
「時の問題だ」
「戦から、戦までの間の灯だぞ、この街の明りだぞ、人間五十年どころか、あしたが闇」
「飲まねば損か、何をくよくよ」
「そうだ、唄って暮せ――」
ここにも、そういう考えのもとに、今の世間に生きている連中の一組があった。
室町家兵法所
平安 吉岡
と書いた
ちょうど、街に灯がつくころになると、この門から、
それが、八、九人、
「若先生、若先生」
と、取巻いて、
「ゆうべの家は、ごめん
「いかんわい。
あの
「きょうは、若先生の何者であるかも、俺たちの顔も、まったく知らない家へ行こうじゃないか」
そのことそのこと――とばかり
吉岡染
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宮本武蔵 - 情報
青空情報
底本:「宮本武蔵(一)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年11月11日第1刷発行
2010(平成22)年5月6日第41刷発行
「宮本武蔵(二)」吉川英治歴史時代文庫、講談社
1989(平成元)年11月11日第1刷発行
2003(平成15)年1月30日第40刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2012年12月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:宮本武蔵