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海豹と雲

著者:北原白秋

かいひょうとくも - きたはら はくしゅう

文字数:23,424 底本発行年:1929
著者リスト:
著者北原 白秋
底本: 白秋全集 5
親本: 海豹と雲
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風格高うして貴く、気韻清明にして、初めて徹る。 虚にして満ち、実にしてまた空しきを以て、詩を専に幻術の秘義となすであらう。

鳥の※(「皐+栩のつくり」の「白」に代えて「自」、第3水準1-90-35)る、ただに尋常の行であらうか。 海豹の水に遊ぶ、誰かまた険難の業とのみ判じよう。 雲は太古にして若く、波は近う飜つて、かへつて帰する際涯を知らない。

詩は我が生来の道である。 その表現の玄微に好んで骨を鏤る。 畢竟は我がふたつなき楽みを我と楽むのである。 ただ志して未だ風韻の神に到らず、境涯整はずして、また未だ苦吟の傷痕を脱し得ざるを恥づる。

望んであまりに遼遠なるが故に、深く頭を垂れるのである。

昭和四年 立秋

白秋

[#改丁]

[#ページの左右中央]

古代新頌

[#改ページ]

水上

水上みなかみは思ふべきかな。

苔清水湧きしたたり、

日の光透きしたたり、

橿かし馬酔木あしび、枝さし蔽ひ、

鏡葉かがみは湯津真椿ゆづまつばき真洞まほらなす

水上みなかみは思ふべきかな。

水上みなかみは思ふべきかな。

山の気の神処こころどの澄み、

岩が根の言問こととひ止み、

かいかがむ荒素膚あらすはだ

荒魂あらみたま神魂かみむすび、神つどへる

水上みなかみは思ふべきかな。

水上みなかみは思ふべきかな。

雲、狭霧、立ちはばかり、

雉子きぎし立ちはばかり、

白きの横伏しあへぎ、

毛の荒物あらもののことごとに道ふた

水上みなかみは思ふべきかな。

水上みなかみは思ふべきかな。

清清さわさわに湧きしたたり、

いやさやに透きしたたり、

神ながら神び古る

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海豹と雲 - 情報

海豹と雲

かいひょうとくも

文字数 23,424文字

著者リスト:
著者北原 白秋

底本 白秋全集 5

親本 海豹と雲

青空情報


底本:「白秋全集 5」岩波書店
  1986(昭和61)年9月5日発行
底本の親本:「海豹と雲」アルス
  1929(昭和4)年8月28日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:岡村和彦
校正:大沢たかお
2012年8月24日作成
2012年11月25日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:海豹と雲

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