海豹と雲
著者:北原白秋
かいひょうとくも - きたはら はくしゅう
文字数:23,424 底本発行年:1929
序
風格高うして貴く、気韻清明にして、初めて徹る。 虚にして満ち、実にしてまた空しきを以て、詩を専に幻術の秘義となすであらう。
鳥の
る、ただに尋常の行であらうか。
海豹の水に遊ぶ、誰かまた険難の業とのみ判じよう。
雲は太古にして若く、波は近う飜つて、かへつて帰する際涯を知らない。
詩は我が生来の道である。 その表現の玄微に好んで骨を鏤る。 畢竟は我がふたつなき楽みを我と楽むのである。 ただ志して未だ風韻の神に到らず、境涯整はずして、また未だ苦吟の傷痕を脱し得ざるを恥づる。
望んであまりに遼遠なるが故に、深く頭を垂れるのである。
昭和四年 立秋
白秋
[#改丁]
[#ページの左右中央]
古代新頌
[#改ページ]
水上
苔清水湧きしたたり、
日の光透きしたたり、
山の気の
岩が根の
かいかがむ
雲、狭霧、立ちはばかり、
白き
毛の
いやさやに透きしたたり、
神ながら神