かもめ ――喜劇 四幕――
原題:ЧАЙКА
著者:アントン・チェーホフ Anton Chekhov
かもめ
文字数:53,570 底本発行年:1967
人物
アルカージナ(イリーナ・ニコラーエヴナ) とつぎ先の姓はトレープレヴァ、女優
トレープレフ(コンスタンチン・ガヴリーロヴィチ) その息子、青年
ソーリン(ピョートル・ニコラーエヴィチ) アルカージナの兄
ニーナ(ミハイロヴナ・ザレーチナヤ) 若い処女、裕福な地主の娘
シャムラーエフ(イリヤー・アファナーシエヴィチ) 退職
ポリーナ(アンドレーエヴナ) その妻
マーシャ その娘
トリゴーリン(ボリース・アレクセーエヴィチ) 文士
ドールン(エヴゲーニイ・セルゲーエヴィチ) 医師
メドヴェージェンコ(セミョーン・セミョーノヴィチ) 教員
ヤーコフ 下男
料理人
小間使
ソーリン家の田舎屋敷でのこと。 ――三幕と四幕のあいだに二年間が経過
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第一幕
ソーリン家の領地内の廃園の一部。
広い並木道が、観客席から庭の奥のほうへ走って、湖に通じているのだが、家庭劇のため急設された仮舞台にふさがれて、湖はまったく見えない。
仮舞台の左右に
日がいま沈んだばかり。
幕のおりている仮舞台の上には、ヤーコフほか下男たちがいて、
メドヴェージェンコ あなたは、いつ見ても黒い服ですね。 どういうわけです?
マーシャ わが人生の喪服なの。 あたし、不仕合せな女ですもの。
メドヴェージェンコ なぜです? (考えこんで)わからんですなあ。
……あなたは健康だし、お父さんにしたって金持じゃないまでも、暮しに不自由はないし。
僕なんか、あなたに比べたら、ずっと生活は
マーシャ お金のことじゃないの。 貧乏人だって、仕合せにはなれるわ。
メドヴェージェンコ そりゃ、理論ではね。 だが実際となると、そうは行かない。