民芸とは何か
著者:柳宗悦
みんげいとはなにか - やなぎ むねよし
文字数:31,732 底本発行年:2006
第一篇 なぜ民藝に心を惹かれているか
一 民藝とはいかなる意味か
工藝の諸問題のうちで、過去に対しても将来に向っても、一番意味深い対象となるのは民藝の問題なのです。
美の問題からしても経済の問題からしても、これ以上に根本的な工藝問題はないのです。
何故なら工藝の鑑賞に浸る時、またはその真理を追求する時、誰もこの領域に帰って来るからです。
「民藝品たること」と「工藝品たること」との間には、密接な関係が潜むからです。
工藝が実用を生命とする限り、民藝をこそ工藝中の工藝と呼ばねばなりません。
それ故
しかるに今日までこの領域が真理問題として明確に取り扱われたことはないのです。 もし正当にその意義が認識せられたら、工藝の歩むべき方向について、またそれを顧みるべき批判の原理について、一つの標的を捕え得るでしょう。 だが多くの人々にとって、それは見慣れない世界であるに違いないのです。 それ故私はできるだけ平易な言葉のうちに、順を追って目撃した真理を記してゆこうと思うのです。 恐らく何事よりも字句の意味から筆を起すのが至当かと思われます。
民藝とは民衆が日々用いる工藝品との義です。
それ故、実用的工藝品の中で、最も深く人間の生活に交る品物の領域です。
俗語でかかるものを「
それ故、
したがってかかるものは富豪貴族の生活には自然縁が薄く、一般民衆の生活に一層親しい関係をもっています。
それ故、実用品の代表的なものは「民藝品」です。
例えば御殿は王侯の造営物であり、民家は民衆の建物でいわば建物の中の民藝です。
例えば
しかし民藝品はごく普通のもの、いわゆる上等でないものを指すため、ひいては粗末なもの、下等なものという
ですがこれは官尊民卑の
さて、民衆的工藝と貴族的工藝と、どういう区別があるか、その性質の違いはどこにあるか。 大体左の通りに考えてくださっていいのです。