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野ばら

著者:小川未明

のばら - おがわ みめい

文字数:2,304 底本発行年:1976
著者リスト:
著者小川 未明
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序章-章なし

おおきなくにと、それよりはすこしちいさなくにとがとなっていました。 当座とうざ、その二つのくにあいだには、なにごともこらず平和へいわでありました。

ここはみやこからとおい、国境こっきょうであります。 そこには両方りょうほうくにから、ただ一人ひとりずつの兵隊へいたい派遣はけんされて、国境こっきょうさだめた石碑せきひまもっていました。 おおきなくに兵士へいし老人ろうじんでありました。 そうして、ちいさなくに兵士へいし青年せいねんでありました。

二人ふたりは、石碑せきひっているみぎひだりばんをしていました。 いたってさびしいやまでありました。 そして、まれにしかそのへんたびする人影ひとかげられなかったのです。

はじめ、たがいにかおわないあいだは、二人ふたりてき味方みかたかというようなかんじがして、ろくろくものもいいませんでしたけれど、いつしか二人ふたりなかよしになってしまいました。 二人ふたりは、ほかにはなしをする相手あいてもなく退屈たいくつであったからであります。 そして、はるながく、うららかに、あたまうえかがやいているからでありました。

ちょうど、国境こっきょうのところには、だれがえたということもなく、一株ひとかぶばらがしげっていました。 そのはなには、朝早あさはやくからみつばちがんできてあつまっていました。 そのこころよ羽音はおとが、まだ二人ふたりねむっているうちから、夢心地ゆめごこちみみこえました。

「どれ、もうきようか。 あんなにみつばちがきている。」 と、二人ふたりもうわせたようにきました。 そしてそとると、はたして、太陽たいようのこずえのうえ元気げんきよくかがやいていました。

二人ふたりは、岩間いわまからわき清水しみずくちをすすぎ、かおあらいにまいりますと、かおわせました。

「やあ、おはよう。 いい天気てんきでございますな。」

「ほんとうにいい天気てんきです。 天気てんきがいいと、気持きもちがせいせいします。」

二人ふたりは、そこでこんなばなしをしました。 たがいに、あたまげて、あたりの景色けしきをながめました。 毎日まいにちている景色けしきでも、あたらしいかんじをたびこころあたえるものです。

青年せいねん最初さいしょ将棋しょうぎあゆかたりませんでした。 けれど老人ろうじんについて、それをおそわりましてから、このごろはのどかなひるごろには、二人ふたり毎日まいにちかいって将棋しょうぎしていました。

はじめのうちは、老人ろうじんのほうがずっとつよくて、こまとしてしていましたが、しまいにはあたりまえにして、老人ろうじんかされることもありました。

この青年せいねんも、老人ろうじんも、いたっていい人々ひとびとでありました。 二人ふたりとも正直しょうじきで、しんせつでありました。 二人ふたりはいっしょうけんめいで、将棋盤しょうぎばんうえあらそっても、こころけていました。

「やあ、これはおれけかいな。 こうげつづけではくるしくてかなわない。 ほんとうの戦争せんそうだったら、どんなだかしれん。」 と、老人ろうじんはいって、おおきなくちけてわらいました。

青年せいねんは、またちみがあるのでうれしそうなかおつきをして、いっしょうけんめいにかがやかしながら、相手あいておうさまをっていました。

小鳥ことりはこずえのうえで、おもしろそうにうたっていました。

序章-章なし
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野ばら - 情報

野ばら

のばら

文字数 2,304文字

著者リスト:
著者小川 未明

底本 定本小川未明童話全集 2

青空情報


底本:「定本小川未明童話全集 2」講談社
   1976(昭和51)年12月10日第1刷
   1982(昭和57)年9月10日第7刷
※表題は底本では、「野(の)ばら」となっています。
入力:ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正:匿名
2012年5月22日作成
2012年9月28日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:野ばら

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