• URLをコピーしました!

ファウスト

著者:Johann Wolfgang von Goethe

ファウスト

文字数:245,325 底本発行年:1996
0
0
0


薦むることば

昔我が濁れる目にはやく浮びしことある

よろめける姿どもよ。 再び我前に近づき来たるよ。

いでや、こたびはしも汝達なんたちを捉へんことを試みんか。

我心なおそのかみの夢を懐かしみすと覚ゆや。

汝達我にせまる。 さらば好し。 もやと霧との中より

我身のめぐりに浮び出でて、さながらに立ち振舞へかし。

汝達のつらのめぐりに漂へる、しき息に、

我胸は若やかに揺らるゝ心地す。

楽しかりし日のくさ/″\のかたを汝達はもたらせり。

さて許多あまたのめでたき影ども浮び出づ。 10

半ば忘られぬる古き物語の如く、

初恋も始ての友情も諸共に立ち現る。

歎は新になりぬ。 訴は我世の

蜘手くもでなし迷へるあゆみを繰り返す。

さてさちに欺かれて、美しかりぬべき時を失ひ、15

我に先立ちてにしき人等の名を呼ぶ。

我が初の※(「門<癸」、第3水準1-93-53)すうけつを歌ひて聞せしたま等は

後の数※(「門<癸」、第3水準1-93-53)をば聞かじ。

親しかりし団欒まといあらけぬ。

あはれ、始て聞きつる反響は消えぬ。 20

我歎は知らぬ群の耳に入る。

その群の褒むる声さへ我心を傷ましむ。

かつて我歌を楽み聞きし誰彼

猶世にありとも、そは今所々に散りて流離さすらひをれり。

昔あこがれし、静けく、いかめしき霊の国をば25

久しく忘れたりしに、その係恋あこがれに我また襲はる。

我が囁く曲は、アイオルスのことの如く、

定かならぬをなして漂へり。

われふるいに襲はる。 なみだいでつ。

厳しき心なごみ軟げるを覚ゆ。 30

今我がたる物遠き処にあるかと見えて、

薦むることば

━ おわり ━  小説TOPに戻る
0
0
0
読み込み中...
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
シェア

ファウスト - 情報

ファウスト

ファウスト

文字数 245,325文字

底本 ファウスト 森鴎外全集11

青空情報


底本:「ファウスト 森鴎外全集11」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年2月22日第1刷発行
   2007(平成19)年6月25日第5刷発行
※原題「FAUST. EINE TRAGDIE」は、ファイル冒頭ではアクセント符号を略し、「FAUST. EINE TRAGODIE」としました。
※底本では一行が長くて二行にわたっているところは、二行目が1字下げになっています。
※「槓杆(てこ)や螺牡(ねじ)で開(あ)けて見ることは出来ない。」の下の地付きの行番号「675」は、一つ前の行につくべきだと思われますが、底本どおりにしました。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2012年10月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:ファウスト

小説内ジャンプ
コントロール
設定
しおり
おすすめ書式
ページ送り
改行
文字サイズ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!