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アーサー王物語

著者:テニソン Tennyson

アーサーおうものがたり

文字数:58,944 底本発行年:1907
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叢書序

本叢書は洽ねく大家の手に成るもの、或は青年の必讀書として世に傳はるものゝ中より、其内容文章共に英文の至珍とすべく、特に我青年諸氏に利益と快樂とを與ふるものを撰拔せり。

英語を學ぶに當り、文法字義を明かにし、所謂難句集に見る如き短文を攻究するの要あるは云ふまでもなしと雖も、亦可成多く一篇を成せる名家の著を讀み、英文に對する趣味を養ひ、不知不識其の豐富なる語類成句に習熟することを怠るべからず。 前者は專ら學課として教師の指導に待つべきも、後者は學生諸子自ら講學の餘暇を利用して之を心掛くべきなり。 著者等は親しく學生諸子に接し、教場以外獨習の助けとなるべきものゝ要求を知れり、是れ本叢書刊行の企ある所以にして、其冊子の小なるも諸子が携帶の便を計りたればなり。

直譯なるもの及び之れと密接の關係ある不完全なる和譯英字書の譯語を其儘に用うるの弊害世に知られて、英學界の呪詛となりたれども、單に代名詞、助動詞等の譯し振りを變じたるのみにして、種々の事情より此弊未だ一掃せられず、此形式的譯法は原文の意義を發揮するに於て甚だ不完全のみならず、諸子一度此習癖に染まば修學上の害測り知るべからざるものあらん。 又之れと全く反對の自由なる意譯法は、單に譯文として見る時は兎に角、諸子が修學の助けとして遺憾甚だ多し。 著者等は原文の成句成文を單位として其意義を十分に譯出し、邦語の語法の許す限りは原文の一語をも忽かせにせざらんことを努め、且つ譯文中に屡々原文を※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)入して譯文との關係を示し、又其※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)入の原文は直ちに和文英譯の參考たらんことに意を用ゐたり。 盖し是れ至難の業、茲には著者等の意のある所を一言し、如何に之れに成功したるかは諸子の判斷に委せんとす。

最後に諸子の注意を促さんに、原文と譯文とを對照して其意義を解したるのみに放擲せば、諸子の惱中に留まるは恐らく譯文にして原文にあらざらん、是れ英文を讀むと稱するも其實邦文を讀みたるものなり。 著者等は諸子に切言す、相對照して其意義を明かにしたる後更に原文のみを數回音讀して其印象を得られんことを、且つ譯文によりて和文英譯を試みられなば頗る有益の練習となり、著者等が此微々たる盡力を最大に利益に應用するものと云ふべし。

譯註者識

――――――

注意

譯解の都合上原書の一パラグラフを幾段にも分つの必要を生ぜり、但し段落の初行を一字劃右に寄せたるが原書に於けるパラグラフの始めと知るべし。

[#改丁]

本篇緒言

譯者は本叢書第六篇『無人島日記』の緒言に於て、『ロビンソン、クルーソー漂流記』は冐險的、商業的、實際的なるアングロサキソンの特性を具體にしたるものなることを云へり。 然れども是等の特色は未だ以て偉大なる國民を形成するに足らず、更に個人の品性を堅實にし、國民の理想を高遠ならしむる、道徳的、靈性的勢力の大なるものあるを要す。 譯者は茲に本篇『アーサー王物語』に於て、アングロサキソン人種をして眞に偉大なる國民たらしめたる、更に重要にして根本的なる其性格理想の幾分を諸子に紹介するの機を得たるを悦ぶ。

アーサー王圓卓士の物語は、五世紀の半ばより數世紀に亘れる、ブリトン、アングロサキソン、兩人種が苦鬪中の事蹟に起原し、十二世紀の半ば頃初めてヂヨフレー、オブ、マンマスの『ブリトン王列傳』中に記されたるもの正確なる歴史的考證を欠くと雖も、不思議にも、アングロサキソン人種の武士道的理想は此漠然たるケルティツク王の口碑を藉りて表現し、アーサー王物語は、恰も彼の煙の如き星雲が幾百千年の時を經て次第に爛然たる星宿となるが如く、屡々詩となり文となり、マローリーの散文(Morte D'Arthur)に映じ、スペンサーの詩(Faerie Queene)に輝き、將さにミルトンのエピツク(epic)とならんとして果さず、終に十九世紀の大詩人テニソン卿の靈筆によりて The Idylls of the King となり、文學界の不滅なる明星として天下の人其光芒を仰ぐに至れり。

本篇は、『十九世紀の理想を以て詠じたる武士道詩』と稱せらるる此 The Idylls of the King の梗概の一部也。 紙數限りありて其全體を對譯する能はざるを憾みとすれども、本篇の收むる所亦自ら一の物語を成せり。 以て英國武士道の一班を窺ふを得べく且つ諸子が後日テニソンの原作を閲讀するの手引となすに足らん。

譯註者識

――――――

[#改丁]

JUVENILE ENGLISH LITERATURE.

 青年英文學叢書

KING ARTHUR'S ROUND TABLE.

 アーサー王物語

――――

GARETH AND LYNETTE.

  ゲーレスとリネツトの卷

It was in the old days of England, when instead of one King, there were many, who divided the country between them, and constantly made war upon each other, to increase their possessions.

(譯)之れは英吉利の昔しの話(it was in the old days of England)、國に一王の今とは違ひ(when instead of one king)國土を分つ數多の君々あつて(there were many, who divided the country between them)、己が領地を擴めやうと(to increase their possessions)干戈を交えぬ日はなかつた(constantly made war upon each other)。

The noblest of all these Kings was Arthur. He was the son of Uther Pendragon, and he succeeded to the throne at a very early age, though not without great trouble, as the knights and barons said they would not be ruled over by a “beardless boy,” and if he wanted his crown he might fight for it. However, by the aid of an old man named Merlin, who was supposed to have magic powers, the rising insurrection was stopped, and young King Arthur was crowned with great pomp in London.

(譯)是等諸王の最も尊ふときはアーサー王である、ユーサー、ペンドラゴンの子にして弱冠にして(at a very early age)王位を繼ぎたるが、領内の士、貴族共、何條『無髯の小童(こわらべ)』が配下に立たうや(would not be ruled over by a “beardless boy”)、王冠欲しくば(if he wanted)劍の先で取つて見よ(he might fight for it)と云ふ勢ひ(as……said)、其困難一方ならずであつた(not without great trouble)。 されども、マーリンと云へる、不思議の術ありと思はれたる(who was supposed to have magic powers)一老翁の助力に依つて、起り立つ叛亂茲に鎭まり(the rising insurrection was stopped)、年若きアーサー王は儀式盛かんに(with great pomp)龍動にて王冠を戴く事になつた。

The King proved himself able not only to take the crown, but to keep it, and the other Kings found they had to be very respectful to him, and very careful not to encroach on his boundaries.

(譯)此王、唯に王冠を獲るのみか之を保有するの力あること明かになつて(proved himself able)、他の王達も心して彼を敬し(to be very respectful to him)、苟めにも其の國境を侵してはならず(very careful not to encroach on his boundaries)と思ひ知つた(found)。

For the encouragement of feats of arms and all sorts of bravery, he founded the brotherhood of the Knights of the Round Table, and any man who wished to join it had first to prove his worth in tournament or fight. They had also to take this oath: --

(譯)武藝を練り義勇の行を勵まさんと(for the encouragement of feats of arms and all sorts of bravery)王は圓卓士の義團を建て(he founded the brotherhood of the Knights of the Round Table)、苟も之れに加らうとするものは試合なり實戰なり先づ其の力を證すべきものと定めた(had first to prove his worth)。

叢書序

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アーサー王物語 - 情報

アーサー王物語

アーサーおうものがたり

文字数 58,944文字

著者リスト:

底本 第八篇 アーサー王物語

青空情報


底本:「第八篇 アーサー王物語」青年英文學叢書、三省堂書店
   1907(明治40)年6月11日発行
※底本は横組みです。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※国会図書館デジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp)で公開されている当該書籍画像に基づいて、作業しました。
※底本の表紙には、「菅野徳助 奈倉次郎 訳註」とあります。
入力:林清俊
校正:考奈花
2011年3月8日作成
2016年7月19日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:アーサー王物語

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