料理メモ
著者:北大路魯山人
りょうりメモ - きたおおじ ろさんじん
文字数:2,963 底本発行年:1993
*食べ頃はあゆのとれ出した若あゆから七月初旬まで。 さばのように大きく成長したのはまずい。 卵子を持つまでが一等美味。
*あゆの産地ではめいめいお国自慢をしているが、結局はだいたいとれたての新鮮なのをすぐ食べること。
*はらわたをぬかないはらもちにかぎる。 東京に来るのははらわたをぬいたもの九分九厘。 買うときにこのことを留意すること。
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*背ごしはその次。
*生きのいいものは塩焼き。 生きの悪いのは照り焼き。
*あゆの食べ方。 塩焼きは頭から食え。 頭の中のエキスがうまい。 骨はかんで吐き出す。 はらわたは無論美味。
*あゆの雑炊はふぐの雑炊に次ぐ雑炊の王。
岐阜辺りでやっている。
*たくさんあって焼いたり保存したり、焼きざましになったものは焼き豆腐と煮ると美味。
握り
*握り鮨は男子の食べるもので婦女子向きではない。 なぜなら、ひと口に食べてうまいものでそれを二つ箸で割ったり、まぐろを別にはがしたりしては鮨の美味は味わえぬ。
*まぐろのとろ、てっか巻きなどはしょうがを載せて食え。 まぐろは酢に好適のものなれども少しくさい点がある。 これをおぎなうのがしょうが。
*小あじは皮付きの方がうまい。
しかし適当に塩や酢が回らないとなまぐさい。
たいがいは
*わたしの
*のり巻きはしっとりしめったのはまずい。 のりが乾燥してカサカサしているうちに食べないとまずい。 立ち食い以外はのり巻きは食えぬ。
*あなごに、赤貝は一個十五銭以上のものを食え。 もともと原料の高価なもの。 安いものは場違いの味のまずいもの。
*えび、玉子焼き、いかなどは問題にするほどでない。 女、子供に任しておけ。