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鮪の茶漬け

著者:北大路魯山人

まぐろのちゃづけ - きたおおじ ろさんじん

文字数:2,229 底本発行年:1993
著者リスト:
底本: 魯山人の食卓
親本: 魯山人著作集
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序章-章なし

たい茶漬けは世間に流布るふされ、その看板をかけている料理屋さえ出来てきた。 関西ではもちろんのこと、東京でも近来よく見かけるようになった。 また、家庭にも侵入して、実際に試みられるようにさえなっている。 それなのに、たいより簡単で、美味うまいまぐろの茶漬けが用いられていないのは、ふしぎな気がする。

たいは関西がよく、まぐろは東京がいい。

その意味からいっても、東京は、たい茶漬けよりまぐろの茶漬けを用いてしかるべきであろう。

東京に、もし京阪けいはんのような食道楽くいどうらくが発達していたら、おそらく、今日までまぐろの茶漬けを見逃してはいなかったであろう。 そういう私も、まぐろの茶漬けは京都で覚えたもので、東京人から教わったものではなかった。 今後の東京人は、たい茶漬けなんて関西の模倣もほうをやらないで、堂々と江戸前えどまえのまぐろをもって、たい茶漬けに対すべきである。 東京には関西のような、美味なたいがないから、なおさらである。

茶漬けの御飯

御飯のき方がやわらかく、ベタベタするようなのは一番いけない。 すしのめしの程度がいい。 炊きたての御飯ではいけない。 生暖かにさめた程度がいい。 茶漬けにもよりけりだが、魚の茶漬けには冷飯ひやめしは絶対にいけない。

お茶の出し方

かける茶は番茶では美味くない。 煎茶せんちゃにかぎる。 煎茶の香味と苦味とが入用いりようである。 少し濃い目の茶をかけると、調和がとれる。 茶が薄くては不味まずい。 だから、こな茶の上等がいいというわけになる。

粉茶のだし方は人も知るように、粉茶専用の小さなざるがある。 これはすし屋で使っているものである。 それで、すし屋の用いるように、大目ざるに一杯程度入れて水をさす。 なぜなら、こな茶は茶の残りを集めたいわば茶のくずであるから、ほこりなどがまじっていよう。 これを洗滌せんじょうする意味で、ざるの中に入れた茶に水をさすと、乳白色に水がよごれてこぼれてくる。 これを捨て、ざるの中の粉茶に熱湯をそそぐ。

この場合、熱湯を少しずつ注げば、茶は濃くなり、ざあっと一気にお湯を注げば、茶は薄くなる。 熱湯の注ぎ方によって、濃淡自在にお茶は加減できる。

茶漬ちゃづけには、熱湯を少しずつ注いだ濃い目のものを用いるのがよい。 しかし、抹茶まっちゃ煎茶せんちゃにしても、最上のものを用いることが秘訣ひけつだ。 茶が悪いと、茶漬けの中に、なにが入っていようが駄目だめである。

要するに、茶がよくなければ茶漬けの意義がない。

茶漬けのまぐろ

さて、茶漬けに用いるまぐろだが、しびまぐろがいい。

しびまぐろは、ふつうすし屋で使っているまぐろのことである。 まぐろのトロといって、白っぽい、あぶらいところをよろこぶ。

序章-章なし
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鮪の茶漬け - 情報

鮪の茶漬け

まぐろのちゃづけ

文字数 2,229文字

著者リスト:

底本 魯山人の食卓

親本 魯山人著作集

青空情報


底本:「魯山人の食卓」グルメ文庫、角川春樹事務所
   2004(平成16)年10月18日第1刷発行
   2008(平成20)年4月18日第5刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
   1993(平成5)年発行
初出:「星岡」
   1932(昭和7)年
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2010年1月14日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:鮪の茶漬け

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