甘鯛の姿焼き
著者:北大路魯山人
あまだいのすがたやき - きたおおじ ろさんじん
文字数:1,084 底本発行年:1993
この料理は、東京に昔からあるものだが、大きいのでちょっと厄介である。 金串を打つのにコツがあり、なにも知らずに、ただやたらに何本も串を打ってはいけない。
最初に金串を扇形になるように打つ。
それからあとは何本打とうと、扇の
甘だいといっても、東京では興津だいといわれるもので、静岡を中心とした近海でとれるのがよいとされている。
関西に行くと、北陸からまわってくるもの、若狭から来ているものでぐじといっているが、これは北陸の海に
ぐじは鱗ごと食うところに風情があるのであって、一部の人々に喜ばれている。 たまたま東京のある料理屋で、興津だいを鱗ごと焼いて出されたことがあるが、これは猿真似で大きな失敗である。 東京のは鱗をはがして食わねばならない。 鱗ごと焼くのは初めから間違いである。
若狭のぐじは、このようにしゃれた食い方になっているので、それを知っておくことも無駄ではなかろう。
また興津だいにも種類があり、
九州の白皮という甘だいは、関東には少ないが、九州から五島列島に行くと、そればかりのように多い。 塩をして持って来るけれど、非常にまずく、従って値も安い。 時によっては、普通の甘だいの値段の五分の一から十分の一ぐらい安い時もある。 形も大きいので、小田原ではかまぼこの材料にずいぶん使っている。
列車で持って来るほど使っているので、現今の小田原のかまぼこは色がついていて、味がくどく、昔の面目を失っている。
本来高級魚である甘だいが、遠隔のため時間が経ち、その美味をまっとうしないのである。 産地で食うと、もちろん美味なものである。
この魚は、イタリアのナポリで食ったことがあるが、うまい魚のなかった外国で、とても美味に感じた魚である。