流刑地で
原題:IN DER STRAFKOLONIE
著者:フランツ・カフカ Franz Kafka
るけいちで
文字数:31,715 底本発行年:1960
「奇妙な装置なのです」と、将校は調査旅行者に向っていって、いくらか驚嘆しているようなまなざしで、自分ではよく知っているはずの装置をながめた。
旅行者はただ儀礼から司令官のすすめに従ったらしかった。
司令官は、命令不服従と上官侮辱とのために宣告を下された一人の兵士の刑の執行に立ち会うようにとすすめたのだった。
この刑執行に対する関心は、
旅行者はそんな装置にはほとんど興味がなく、受刑者の背後でほとんど無関心そうにいったりきたりしていた。
一方、将校のほうは最後の準備をととのえているところで、あるいは地中深くにすえつけた装置の下をはったり、あるいは上の部分を調べるために
「これですっかりすんだ!」と、ついに将校は叫んで、梯子を下りてきた。 ひどく疲れていて、口を大きく開けて息をしており、二枚の薄い婦人用ハンカチを軍服のカラーのうしろに押しこんでいた。
「そういう軍服では熱帯では重たすぎますね」と、旅行者は将校が予想していたように装置のことをたずねるかわりに、そういった。
「まったくです」と、将校はいって、油脂で汚れた両手を用意されてあるバケツで洗った。
「でも、この軍服は故国を意味するものです。 われわれは故国を失いたくありません。 ――ところで、この装置をごらん下さい」と、彼はすぐに言葉をつけ加え、両手を布でふき、同時に装置をさし示した。 「今まではまだ手でやる仕事が必要でしたが、これからは装置がまったくひとりで働きます」
旅行者はうなずいて、将校のあとにつづいた。 将校はどんな突発事故に対しても言いのがれをつけておこうとして、やがていった。
「むろん、いろいろ故障が起こります。 きょうは故障は起こらないとは思いますが、ともかくその覚悟だけはしておかなければなりません。 この装置は実際、十二時間もぶっつづけに動くんです。 でも、たとい故障が起っても、ほんの小さな故障ですむはずです。 すぐなおるでしょう」
「おかけになりませんか」と、将校は最後にいって、
「司令官があなたにこの装置を説明したかどうかわかりませんが」と、将校はいった。 旅行者ははっきりしない手のしぐさで否定した。 将校もそれ以上のことを要求しているわけではなかった。 というのは、それなら自分自身で装置のことを説明することができるわけだ。 「この装置は」と、彼はいってL字形のハンドルをつかみ、それで身体を支えた。 「われわれの旧司令官の発明です。 これに関するいちばん最初の実験が行われるようになったとき、私はすぐ協力し、完成までのあらゆる仕事に関係してきました。