城
原題:DAS SCHLOSS
著者:フランツ・カフカ Franz Kafka
しろ
文字数:364,933 底本発行年:1960
第一章
Kが到着したのは、晩遅くであった。
村は深い雪のなかに横たわっていた。
城の山は全然見えず、霧と
それから彼は、宿を探して歩いた。
旅館ではまだ人びとがおきていて、亭主は泊める部屋をもってはいなかったが、この遅い客に見舞われてあわててしまい、Kを食堂の
だが、それからすぐ起こされてしまった。
町方の身なりをした俳優のような顔の、眼が細く
「この村は城の領地です。 ここに住んだり泊ったりする者は、いわば城に住んだり泊ったりすることになります。 だれでも、伯爵の許可なしにはそういうことは許されません。 ところが、あなたはそういう許可をおもちでない。 あるいは少なくともその許可をお見せになりませんでした」
Kは身体を半分起こして、髪の毛をきちんと整え、その人びとを下から見上げて、いった。
「どういう村に私は迷いこんだのですか? いったい、ここは城なんですか?」
「そうですとも」と、若い男はゆっくりいったが、そこここにKをいぶかって頭を振る者もいた。 「ウェストウェスト伯爵様の城なのです」
「それで、宿泊の許可がいるというのですね?」と、Kはたずねたが、相手のさきほどの通告がひょっとすると夢であったのではないか、とたしかめでもするかのようであった。
「許可がなければいけません」という答えだった。 若い男が腕をのばし、亭主と客たちとに次のようにたずねているのには、Kに対するひどい嘲笑が含まれていた。
「それとも、許可はいらないとでもいうのかな?」
「それなら、私も許可をもらってこなければならないのでしょうね」と、Kはあくびをしながらいって、起き上がろうとするかのように、かけぶとんを押しやった。
「それでいったいだれの許可をもらおうというんですか?」と、若い男がきく。
「伯爵様のですよ」と、Kはいった。 「ほかにはもらいようがないでしょう」
「こんな真夜中に伯爵様の許可をもらってくるんですって?」と、若い男は叫び、一歩あとしざりした。
「できないというのですか?」と、Kは平静にたずねた。 「それでは、なぜ私を起こしたんです?」
ところが今度は、若い男はひどくおこってしまった。
「まるで浮浪人の態度だ!」と、彼は叫んだ。 「伯爵の役所に対する敬意を要求します! あなたを起こしたのは、今すぐ伯爵の領地を立ち退かなければならないのだ、ということをお知らせするためです」
「
「お若いかた、あなたは少しばかり度を越していますよ。