屋上の狂人
著者:菊池寛
おくじょうのきょうじん - きくち かん
文字数:7,640 底本発行年:1988
人物
狂人 勝島義太郎 二十四歳
その弟 末次郎 十七歳の中学生
その父 義助
その母 およし
隣の人 藤作
下男 吉治 二十歳
時
明治三十年代
所
瀬戸内海の
舞台 この小さき島にては、屈指の財産家なる勝島の家の裏庭。
家の内部は
義助 (姿は見えないで)
(縁側へ出て)
吉治 (右手から姿を現す)へえなんぞ御用ですか。
義助
吉治 そらもう、ちゃんとええようにしてありますんや。
義助 (竹垣の折戸から舞台へ出て来ながら、屋根を見上げて)あなに焼石のような瓦の上に座って、なんともないんやろか。 義太郎! 早う降りて来い。 そなな暑い所におったら暑気して死んでしまうぞ。
吉治 若旦那! 降りとまあせよ。 そなな所におったら身体のどくやがなあ。
義助 義やあ、早う降りて来んかい。 何しとんやそなな所で。 早う降りんかい、義やあ!
義太郎 (けろりとしたまま)何や。
義助 何やでないわい。 早う降りて来いよ。 お日さんにかんかん照り付けられて、暑気するがなあ。