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竹取物語

著者:和田萬吉

たけとりものがたり - わだ まんきち

文字数:6,933 底本発行年:1928
著者リスト:
著者和田 万吉
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序章-章なし

むかし、いつのころでありましたか、竹取たけとりのおきなといふひとがありました。 ほんとうの讃岐さぬき造麻呂みやつこまろといふのでしたが、毎日まいにちのように野山のやま竹藪たけやぶにはひつて、たけつて、いろ/\のものつくり、それをあきなふことにしてゐましたので、ぞく竹取たけとりのおきなといふとほつてゐました。 ある、いつものように竹藪たけやぶんでますと、一本いつぽんみようひかたけみきがありました。 不思議ふしぎおもつて近寄ちかよつて、そっとつてると、そのつたつゝなかたか三寸さんずんばかりのうつくしいをんながゐました。 いつも見慣みなれてゐるやぶたけなかにゐるひとですから、きっと、てんとしてあたへてくれたものであらうとかんがへて、そのうへせてかへり、つまのおばあさんにわたして、よくそだてるようにいひつけました。 ばあさんもこのたいそううつくしいのをよろこんで、かごなかれて大切たいせつそだてました。

このことがあつてからも、おきなはやはりたけつて、その/\をおくつてゐましたが、奇妙きみようなことには、おほくのたけるうちにふしふしとのあひだに、黄金おうごんがはひつてゐるたけつけることが度々たび/\ありました。 それでおきないへ次第しだい裕福ゆうふくになりました。

ところで、たけなかからは、そだかたがよかつたとえて、ずん/\おほきくなつて、三月みつきばかりたつうちに一人前いちにんまへひとになりました。 そこで少女をとめにふさはしい髮飾かみかざりや衣裳いしようをさせましたが、大事だいじですから、いへおくにかこつてそとへはすこしもさずに、いよ/\こゝろれてやしなひました。 おほきくなるにしたがつて少女をとめかほかたちはます/\うるはしくなり、とてもこの世界せかいにないくらゐなばかりか、いへなかすみからすみまでひかかゞやきました。 おきなにはこのるのがなによりのくすりで、またなによりのなぐさみでした。 そのあひだ相變あひかはらずたけつては、黄金おうごんれましたので、つひにはたいした身代しんだいになつて、家屋敷いへやしきおほきくかまへ、使つかひなどもたくさんいて、世間せけんからもうやまはれるようになりました。 さて、これまでつい少女をとめをつけることをわすれてゐましたが、もうおほきくなつてのないのもへんだとづいて、いゝづけおやたのんでをつけてもらひました。 その嫋竹なよたけ赫映姫かぐやひめといふのでした。 そのころ習慣ならはしにしたがつて、三日みつかあひだ大宴會だいえんかいひらいて、近所きんじよひとたちや、そのほかおほくの男女なんによをよんでいはひました。

このうつくしい少女をとめ評判ひようばんたかくなつたので、世間せけんをとこたちはつまもらひたい、またるだけでもておきたいとおもつて、いへちかくにて、すきのようなところからのぞかうとしましたが、どうしても姿すがたることが出來できません。 せめていへひとつて、ものをいはうとしても、それさへつてくれぬ始末しまつで、人々ひと/″\はいよ/\んでさわぐのでした。 そのうちで、よるひるもぶっとほしにいへそばはなれずに、どうにかして赫映姫かぐやひめつてこゝろざしせようとおも熱心家ねつしんか五人ごにんありました。 みなくらゐたか身分みぶんたふとかたで、一人ひとり石造いしつくりの皇子みこ一人ひとり車持くらもちの皇子みこ一人ひとり右大臣うだいじん阿倍御主人あべのみうし一人ひとり大納言だいなごん大伴御行おほとものみゆき一人ひとり中納言ちゆうなごん石上麻呂いそのかみのまろでありました。 このひとたちはおもひ/\にだてをめぐらしてひめれようとしましたが、たれ成功せいこうしませんでした。 おきなもあまりのことにおもつて、あるときひめむかつて、

「たゞのひとでないとはいひながら、今日けふまでやしなそだてたわしをおやおもつて、わしのいふことをきいてもらひたい」

と、前置まへおきして、

「わしは七十しちじゆうさかして、もういついのちをはるかわからぬ。 いまのうちによい婿むこをとつて、心殘こゝろのこりのないようにしてきたい。 ひめいつしよう懸命けんめいおもつてゐるかたがこんなにたくさんあるのだから、このうちからこゝろにかなつたひとえらんではどうだらう」

と、いひますと、ひめ案外あんがいかほをしてこたしぶつてゐましたが、おもつて、

わたしおもひどほりのふかこゝろざしせたかたでなくては、をつとさだめることは出來できません。 それはたいしてむづかしいことでもありません。 五人ごにん方々かた/″\わたししいとおももの註文ちゆうもんして、それを間違まちがひなくつてくださるかたにおつかへすることにいたしませう」

と、いひました。 おきなすこ安心あんしんして、れい五人ごにんひとたちのあつまつてゐるところにつて、そのことをげますと、みな異存いぞんのあらうはずがありませんから、すぐに承知しようちしました。 ところがひめ註文ちゆうもんといふのはなか/\むづかしいことでした。 それは五人ごにんとも別々べつ/\で、石造皇子いしつくりのみこには天竺てんじくにあるほとけ御石みいしはち車持皇子くらもちのみこには東海とうかい蓬莱山ほうらいさんにあるぎんきんくき白玉しらたまをもつたえだ一本いつぽん阿倍あべ右大臣うだいじんには唐土もろこしにある火鼠ひねずみ皮衣かはごろも大伴おほとも[#ルビの「おほとも」は底本では「おもとも」]大納言だいなごんにはたつくびについてゐる五色ごしきたま石上いそのかみ中納言ちゆうなごんにはつばめのもつてゐる子安貝こやすがひひとつといふのであります。 そこでおきなはいひました。

「それはなか/\の難題なんだいだ。 そんなことはまをされない」

しかし、ひめは、

序章-章なし
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竹取物語 - 情報

竹取物語

たけとりものがたり

文字数 6,933文字

著者リスト:
著者和田 万吉

底本 竹取物語・今昔物語・謠曲物語

親本 竹取物語・今昔物語・謠曲物語

青空情報


底本:「竹取物語・今昔物語・謠曲物語 No.33」復刻版日本兒童文庫、名著普及会
   1981(昭和56)年8月20日発行
底本の親本:「竹取物語・今昔物語・謠曲物語」日本兒童文庫、アルス
   1928(昭和3)年3月5日発行
※拗促音の小書きの散在は、底本通りです。
入力:しだひろし
校正:noriko saito
2011年4月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:竹取物語

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