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神曲 03 天堂

著者:アリギエリ・ダンテ Alighieri Dante

しんきょく

文字数:211,083 底本発行年:1958
著者リスト:
底本: 神曲(下)
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第一曲

萬物を動かす者の榮光あまねく宇宙を貫くといへどもそのかゞやきの及ぶこと一部に多く一部に少し 一―三

我は聖光みひかりいと多く受くる天にありて諸※(二の字点、1-2-22)の物を見たりき、されど彼處かしこれてくだる者そを語るすべを知らずまたしかするをえざるなり 四―六

これわれらの智、己が願ひに近きによりていと深く進み、追思もこれにともなふあたはざるによる 七―九

しかはあれ、かの聖なる王國たついてわが記憶に秘藏ひめをさめしかぎりのことゞも、今わが歌の材たらむ 一〇―一二

あゝきアポルロよ、この最後いやはてわざのために願はくは我を汝の徳のうつはとし、汝の愛するアルローロをうくるにふさはしき者たらしめよ 一三―一五

今まではパルナーゾの一のいたゞきにてりしかど、今は二つながら求めて殘りの馬場に入らざるべからず 一六―一八

願はくは汝わが胸に入り、かつてマルシーアをその身のさやより拔き出せる時のごとくに氣息いきけ 一九―二一

あゝいと聖なる威力ちからよ、汝我をたすけ、我をしてわが腦裏にされたる祝福めぐみの國のうすれしかたあらはさしめなば 二二―二四

汝はわが汝のめづる樹のもとにゆきてその葉を冠となすを見む、詩題と汝、我にかくするをえしむればなり 二五―二七

父よ、皇帝チェーザレまたは詩人のほまれのためにまるゝことのいとまれなれば(人の思ひの罪と恥なり) 二八―三〇

ペネオのむすめの葉人をして己にかはかしむるときは、悦び多きデルフォの神に喜びを加へざることあらじ 三一―三三

それ小さき火花にも大いなる焔ともなふ、おそらくは我より後、我にまさる馨ありてぎ、チルラのこたへをうるにいたらむ 三四―三六

世界のともしび多くのことなる處よりのぼりて人間にあらはるれども、四の圈相合して三の十字を成す處より 三七―三九

出づれば、その道まさり、その伴ふ星またまさる、しかしてその己がさがに從ひて世の蝋をとゝのかたすこといよ/\いちじるし 四〇―四二

かしこをあしたこゝをゆふべとなしゝ日は殆どかゝる處よりいで、いまやかの半球みな白く、そのほかは黒かりき 四三―四五

この時我見しに、ベアトリーチェは左に向ひて目を日にとめたり、鷲だにもかくばかりこれを凝視みつめしことあらじ 四六―四八

第二の光線常に第一のそれよりいでゝ再び昇る、そのさま歸るを願ふ異郷の客に異ならず 四九―五一

かくのごとく、彼のす所――目を傳ひてわが心の内に入りたる――よりわが爲す所いで、我は世の常をえて目を日に注げり 五二―五四

元來もとより人の住處すまひとして造られたりしところなれば、こゝにてはわれらの力に餘りつゝかしこにてはわれらが爲すをうること多し 五五―五七

わが目のこれにふるをえしはたゞすこしの間なりしも、そがあたかも火よりいづる熱鐡の如く火花をあたりにちらすを見ざる程ならざりき 五八―六〇

しかして忽ち晝晝に加はり、さながらしかすることをうる者いま一の日輪にて天を飾れるごとく見えたり 六一―六三

ベアトリーチェはその目をひたすら永遠とこしへの輪にそゝぎて立ち、我はわが目を上より移して彼にそゝげり 六四―六六

かれの姿を見るに及び、わがうちあたかもかのグラウコが己を海の神々の侶たらしむるにいたれる草を味へる時の如くになりき 六七―六九

※(二の字点、1-2-22)そも/\超人の事たるこれを言葉にあらはし難し、是故に恩惠めぐみによりてこれがためしべき者この例をもてれりとすべし 七〇―七二

天を統治すべをさむる愛よ、我は汝が最後に造りし我の一部に過ぎざりしか、こは聖火みひかりにて我を擧げし汝の知り給ふ所なり 七三―七五

慕はるゝにより汝が無窮となしゝ運行、汝のとゝのへかつわかつそのうるはしき調しらべをもてわが心を引けるとき 七六―七八

日輪の焔いとひろく天をもやすと見えたり、雨または河といふともかくひろがれるうみはつくらじ 七九―八一

おとくすしきと光の大いなるとは、その原因もとにつき、未だ感じゝことなき程に強き願ひをわが心にもやしたり 八二―八四

是においてか、我を知ることわがごとくなりし淑女、わが亂るゝ魂をしづめんとて、我の未だ問はざるさきに口をひらき 八五―八七

いひけるは。 あやまれる思ひをもて自ら己をおろかならしむ。 是故にこれを棄つれば見ゆるものをも汝は見るをえざるなり 八八―九〇

汝は汝の信ずるごとく今地上にあるにあらず、げに己が處を出でゝする電光いなづまはやしといへども汝のこれに歸るに及ばじ。 九一―九三

わが第一の疑ひはこれらの微笑ほゝゑめる短きことばによりて解けしかど、一のあらたなる疑ひ起りていよ/\いたく我をからめり 九四―九六

我即ちふ。 かの大いなる驚異あやしみにつきてはわが心既に足りて安んず、されどいかにしてわれ此等の輕き物體をえてのぼるや、今これをあやしとす 九七―九九

是においてか彼、一の哀憐あはれみ大息といきの後、狂へる子を見る母のごとく、目をわが方にむけて 一〇〇―一〇二

いふ。

第一曲

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神曲 - 情報

神曲 03 天堂

しんきょく 03 てんどう

文字数 211,083文字

著者リスト:

底本 神曲(下)

青空情報


底本:「神曲(下)」岩波文庫、岩波書店
   1958(昭和33)年8月25日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※「神曲」の原文は、三行一組の句を連ねる形式を踏んでいます。底本は訳文の下に、「一」「四」「七」と数字を置いて、原文の句との対応を示していますが、このファイルでは、行末に「一―三」「四―六」「七―九」を置く形をとりました。
入力:tatsuki
校正:浅原庸子
2005年11月26日作成
2021年1月3日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:神曲

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