燃ゆる頬
著者:堀辰雄
もゆるほお - ほり たつお
文字数:7,962 底本発行年:1947
私は十七になった。 そして中学校から高等学校へはいったばかりの時分であった。
私の両親は、私が彼
寄宿舎は、あたかも
二階の寝室はへんに臭かった。
その
こうして私の脱皮はすでに用意されつつあった。 そしてただ最後の一撃だけが残されていた……
或る日の昼休みに、私は一人でぶらぶらと、植物実験室の南側にある、ひっそりした花壇のなかを歩いていた。
そのうちに、私はふと足を止めた。
そこの一隅に
……そのうちに、とうとうその蜜蜂は或る花を選んで、それにぶらさがるようにして止まった。
その花粉まみれの足でその小さな柱頭にしがみつきながら。
やがてその蜜蜂はそれからも飛び立っていった。
私はそれを見ると、なんだか急に子供のような残酷な気持になって、いま受精を終ったばかりの、その花をいきなり
「来て見たまえ。 顕微鏡を見せてやろう……」
その魚住と云う上級生は、私の倍もあるような大男で、円盤投げの選手をしていた。
グラウンドに出ているときの彼は、その頃私たちの間に流行していた
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
燃ゆる頬 - 情報
青空情報
底本:「燃ゆる頬・聖家族」新潮文庫、新潮社
1947(昭和22)年11月30日発行
1970(昭和45)年3月30日26刷改版
1987(昭和62)年10月20日51刷
初出:「文藝春秋」
1932(昭和7)年1月号
初収単行本:「麥藁帽子」四季社
1933(昭和8)年12月5日
※初出情報は、「堀辰雄全集第1巻」筑摩書房、1977(昭和52)年5月28日、解題による。
入力:kompass
校正:染川隆俊
2004年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:燃ゆる頬