飴だま
著者:新美南吉
あめだま - にいみ なんきち
文字数:970 底本発行年:1988
春のあたたかい日のこと、わたし
「おオい、ちょっとまってくれ。」
と、どての向こうから手をふりながら、さむらいがひとり走ってきて、舟にとびこみました。
さむらいは舟のまん中にどっかりすわっていました。 ぽかぽかあたたかいので、そのうちにいねむりをはじめました。
黒いひげをはやして、つよそうなさむらいが、こっくりこっくりするので、子どもたちはおかしくて、ふふふと
お母さんは口に指をあてて、
「だまっておいで。」
といいました。 さむらいがおこってはたいへんだからです。
子どもたちはだまりました。
しばらくするとひとりの子どもが、
「かあちゃん、
と手をさしだしました。
すると、もうひとりの子どもも、
「かあちゃん、あたしにも。」
といいました。
お母さんはふところから、紙のふくろをとりだしました。
ところが、
「あたしにちょうだい。」
「あたしにちょうだい。」
ふたりの子どもは、りょうほうからせがみました。
「いい子たちだから待っておいで、向こうへついたら買ってあげるからね。」
といってきかせても、子どもたちは、ちょうだいよオ、ちょうだいよオ、とだだをこねました。
いねむりをしていたはずのさむらいは、ぱっちり
お母さんはおどろきました。 いねむりをじゃまされたので、このおさむらいはおこっているのにちがいない、と思いました。
「おとなしくしておいで。」
と、お母さんは子どもたちをなだめました。
けれど子どもたちはききませんでした。
するとさむらいが、すらりと
お母さんはまっさおになって、子どもたちをかばいました。 いねむりのじゃまをした子どもたちを、さむらいがきりころすと思ったのです。
「
とさむらいはいいました。
お母さんはおそるおそる