きのこ会議
著者:夢野久作
きのこかいぎ - ゆめの きゅうさく
文字数:1,499 底本発行年:1970
初茸、松茸、椎茸、木くらげ、白茸、
「皆さん。 この頃はだんだん寒くなりましたので、そろそろ私共は土の中へ引き込まねばならぬようになりました。 今夜はお別れの宴会ですから、皆さんは何でも思う存分に演説をして下さい。 私が書いて新聞に出しますから」
皆がパチパチと手をたたくと、お次に椎茸が立ち上りました。
「皆さん、私は椎茸というものです。 この頃人間は私を大変に重宝がって、わざわざ木を腐らして私共の畑を作ってくれますから、私共はだんだん大きな立派な子孫が殖えて行くばかりです。 今にどんな茸でも人間が畠を作ってくれるようになって貰いたいと思います」
皆は大賛成で手をたたきました。 その次に松茸がエヘンと咳払いをして演説をしました。
「皆さん、私共のつとめは、第一に傘をひろげて
と涙を流して申しますと、皆も口々に、
「そうだ、そうだ」
と同情をしました。
するとこの時皆のうしろからケラケラと笑うものがあります。 見るとそれは蠅取り茸、紅茸、草鞋茸、馬糞茸、狐の火ともし、狐の茶袋なぞいう毒茸の連中でした。
その大勢の毒茸の中でも一番大きい蠅取り茸は大勢の真中に立ち上って、
「お前達は皆馬鹿だ。 世の中の役に立つからそんなに取られてしまうのだ。 役にさえ立たなければいじめられはしないのだ。 自分の仲間だけ繁昌すればそれでいいではないか。 俺達を見ろ。 役に立つ処でなく世間の毒になるのだ。 蠅でも何でも片っぱしから殺してしまう。 えらい茸は人間さえも毎年毎年殺している位だ。 だからすこしも世の中の御厄介にならずに、繁昌して行くのだ。 お前達も早く人間の毒になるように勉強しろ」
と大声でわめき立てました。
これを聞いた他の連中は皆理屈に負けて「成る程、毒にさえなればこわい事はない」と思う者さえありました。
そのうちに夜があけて茸狩りの人が来たようですから、皆は本当に毒茸のいう通り毒があるがよいか、ないがよいか、試験してみる事にしてわかれました。
茸狩りに来たのは、どこかのお父さんとお母さんと姉さんと坊ちゃんでしたが、ここへ来ると皆大喜びで、
「もはやこんなに茸はあるまいと思っていたが、いろいろの茸がずいぶん沢山ある」
「あれ、お前のようにむやみに取っては駄目よ。 こわさないように大切に取らなくては」