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智恵子抄

著者:高村光太郎

ちえこしょう - たかむら こうたろう

文字数:30,845 底本発行年:1956
著者リスト:
著者高村 光太郎
底本: 智恵子抄
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人に

いやなんです

あなたのいつてしまふのが――

花よりさきに実のなるやうな

種子たねよりさきに芽の出るやうな

夏から春のすぐ来るやうな

そんな理窟に合はない不自然を

どうかしないでゐて下さい

型のやうな旦那さまと

まるい字をかくそのあなたと

かう考へてさへなぜか私は泣かれます

小鳥のやうに臆病で

大風のやうにわがままな

あなたがお嫁にゆくなんて

いやなんです

あなたのいつてしまふのが――

なぜさうたやすく

さあ何といひませう――まあ言はば

その身を売る気になれるんでせう

あなたはその身を売るんです

一人の世界から

万人の世界へ

そして男に負けて

無意味に負けて

ああ何といふ醜悪事でせう

まるでさう

チシアンの画いた絵が

鶴巻町へ買物に出るのです

私は淋しい かなしい

何といふ気はないけれど

ちやうどあなたの下すつた

あのグロキシニヤの

大きな花の腐つてゆくのを見る様な

私を棄てて腐つてゆくのを見る様な

空を旅してゆく鳥の

ゆくへをぢつとみてゐる様な

浪の砕けるあの悲しい自棄のこころ

はかない 淋しい 焼けつく様な

――それでも恋とはちがひます

サンタマリア

人に

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智恵子抄 - 情報

智恵子抄

ちえこしょう

文字数 30,845文字

著者リスト:

底本 智恵子抄

青空情報


底本:「智恵子抄」新潮文庫、新潮社
   1956(昭和31)年7月15日発行
   1967(昭和42)年12月15日43刷改版
   1984(昭和59)年12月15日79刷
※詩歌の天は、底本では、散文の二字分下に設定してあります。
入力:たきがは、門田裕志
校正:松永正敏
2006年12月20日作成
2014年6月16日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:智恵子抄

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