• URLをコピーしました!

青森

著者:太宰治

あおもり - だざい おさむ

文字数:661 底本発行年:1980
著者リスト:
著者太宰 治
底本: もの思う葦
0
0
0


序章-章なし

青森には、四年いました。 青森中学に通っていたのです。 親戚の豊田様のお家に、ずっと世話になっていました。 寺町の呉服屋の、豊田様であります。 豊田の、なくなった「おさ」は、私にずいぶん力こぶを入れて、何かとはげまして下さいました。 私も、「おどさ」に、ずいぶん甘えていました。

「おどさ」は、いい人でした。 私が馬鹿な事ばかりやらかして、ちっとも立派な仕事をせぬうちになくなって、残念でなりません。 もう五年、十年生きていてもらって、私が多少でもいい仕事をして、おさに喜んでもらいたかった、とそればかり思います。 いま考えると「おどさ」の有難いところばかり思い出され、残念でなりません。 私が中学校で少しでもい成績をとると、おどさは、世界中の誰よりも喜んで下さいました。

私が中学の二年生の頃、寺町の小さい花屋に洋画が五、六枚かざられていて、私は子供心にも、その画に少し感心しました。 そのうちの一枚を、二円で買いました。 この画はいまにきっと高くなります、と生意気な事を言って、豊田の「おどさ」にあげました。 おどさは笑っていました。 あの画は、今も豊田様のお家に、あると思います。 いまでは百円でも安すぎるでしょう。 棟方志功氏の、初期の傑作でした。

棟方志功氏の姿は、東京で時折、見かけますが、あんまり颯爽さっそうと歩いているので、私はいつでも知らぬ振りをしています。 けれども、あの頃の志功氏の画は、なかなか佳かったと思っています。 もう、二十年ちかく昔の話になりました。 豊田様のお家の、あの画が、もっと、うんと、高くなってくれたらいいと思って居ります。

序章-章なし
━ おわり ━  小説TOPに戻る
0
0
0
読み込み中...
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
シェア

青森 - 情報

青森

あおもり

文字数 661文字

著者リスト:
著者太宰 治

底本 もの思う葦

青空情報


底本:「もの思う葦」新潮文庫、新潮社
   1980(昭和55)年9月25日発行
   1998(平成10)年10月15日39刷
入力:蒋龍
校正:土屋隆
2006年11月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:青森

小説内ジャンプ
コントロール
設定
しおり
おすすめ書式
ページ送り
改行
文字サイズ

よかったらシェアしてね!