• URLをコピーしました!

双子の星

著者:宮沢賢治

ふたごのほし - みやざわ けんじ

文字数:10,891 底本発行年:1989
著者リスト:
著者宮沢 賢治
0
0
0


序章-章なし

双子の星 一

あまがわの西の岸にすぎなの胞子ほうしほどの小さな二つの星が見えます。 あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精すいしょうのお宮です。

このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っています。 夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんとすわり、空の星めぐりの歌に合せて、一晩銀笛ぎんてきくのです。 それがこの双子のお星様の役目でした。

ある朝、お日様がカツカツカツとおごそかにお身体からだをゆすぶって、東からのぼっておいでになった時、チュンセ童子は銀笛を下に置いてポウセ童子に申しました。

「ポウセさん。 もういいでしょう。 お日様もお昇りになったし、雲もまっ白に光っています。 今日は西の野原の泉へ行きませんか。」

ポウセ童子が、まだ夢中むちゅうで、半分をつぶったまま、銀笛を吹いていますので、チュンセ童子はお宮から下りて、くつをはいて、ポウセ童子のお宮の段にのぼって、もう一度いました。

「ポウセさん。 もういいでしょう。 東の空はまるで白く燃えているようですし、下では小さな鳥なんかもう目をさましている様子です。 今日は西の野原の泉へ行きませんか。 そして、風車かざぐるまきりをこしらえて、小さなにじを飛ばして遊ぼうではありませんか。」

ポウセ童子はやっと気がついて、びっくりして笛を置いて云いました。

「あ、チュンセさん。 失礼いたしました。 もうすっかり明るくなったんですね。 ぼく今すぐ沓をはきますから。」

そしてポウセ童子は、白い貝殻かいがらの沓をはき、二人は連れだって空の銀の芝原しばはらを仲よく歌いながら行きました。

「お日さまの、

お通りみちを はききよめ、

ひかりをちらせ あまの白雲。

お日さまの、

お通りみちの 石かけを

深くうずめよ、あまの青雲。」

そしてもういつか空の泉に来ました。

この泉はれた晩には、下からはっきり見えます。 天の川の西の岸から、よほどはなれたところに、青い小さな星で円くかこまれてあります。 底は青い小さなつぶ石でたいらにうずめられ、石の間から奇麗きれいな水が、ころころころころき出して泉の一方のふちから天の川へ小さな流れになって走って行きます。 私共の世界がひでりの時、せてしまった夜鷹よだかやほととぎすなどが、それをだまって見上げて、残念そうに咽喉のどくびくびさせているのを時々見ることがあるではありませんか。 どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。 けれども、てん大烏おおがらすの星やさそりの星やうさぎの星ならもちろんすぐ行けます。

「ポウセさんまずここへたきをこしらえましょうか。」

「ええ、こしらえましょう。 僕石を運びますから。」

序章-章なし
━ おわり ━  小説TOPに戻る
0
0
0
読み込み中...
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
シェア

双子の星 - 情報

双子の星

ふたごのほし

文字数 10,891文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 新編 銀河鉄道の夜

親本 新修 宮沢賢治全集

青空情報


底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
   1989(平成元)年6月15日発行
   1994(平成6)年6月5日13刷 
入力:野口英司
1999年7月23日公開
2004年3月22日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:双子の星

小説内ジャンプ
コントロール
設定
しおり
おすすめ書式
ページ送り
改行
文字サイズ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!