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多神教

著者:泉鏡花

たしんきょう - いずみ きょうか

文字数:17,788 底本発行年:1942
著者リスト:
著者泉 鏡花
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序章-章なし

場所  美濃みの三河みかわの国境。 山中のやしろ――奥の院。

名   白寮権現はくりょうごんげん媛神ひめがみ (はたち余に見ゆ)神職。 榛貞臣はしばみさだおみ 修験しゅげんの出)禰宜ねぎ 布気田ふげた五郎次)老いたる禰宜。 雑役の仕丁しちょう 棚村たなむら久内)二十五座の太鼓の男。 〆太鼓しめだいこの男。 笛の男。 おかめの面の男。 道化の面の男。 般若はんにゃの面の男。 後見一人。 お沢。 (或男のめかけ、二十五、六)天狗てんぐ 丁々坊ちょうちょうぼう巫女みこ (五十ばかり)道成寺どうじょうじ白拍子しらびょうしふんしたる俳優やくしゃ 一ツ目小僧の童男童女。 村の五、六人。

[#改ページ]

禰宜 (略装にて)いや、これこれ(中啓ちゅうけいげて、二十五座の一連いちれん呼掛よびかく)大分だいぶ日もかげって参った。 いずれも一休みさっしゃるがいぞ。

この言葉のうち、神楽かぐらの面々、おどりの手をめ、従って囃子はやし静まる。 一連皆素朴そぼくなる山家人やまがびと装束しょうぞくをつけず、めんのみなり。 ――落葉散りしき、尾花おばなむらいたる中に、道化どうけの面、おかめ、般若はんにゃなど、ならび、立添たちそい、意味なき身ぶりをしたるをとどむ。 おのおのその面をはずす、年は三十より四十ばかり。 後見こうけん最も年配なり。

後見 こりゃ、へい、……かんぬし様。

道化の面の男 おやかましいこんでござりますよ。

〆太鼓の男 稽古中けいこちゅうのお神楽で、へい、囃子はやしばかりでも、大抵村方むらかたは浮かれあがっておりますだに、面や装束をつけましては、ばば媽々かかまでも、仕事かせぎは、へい、手につきましねえ。

笛の男 明後日あさってげいから、おやしろ祭礼で、羽目はめさはずいて遊びますだで、刈入時かりいれどきの日はみじけえ、それでは気の毒と存じまして、はあ、これへ出合いましたでごぜえますがな。

般若の面の男 見よう見真似みまねの、からざる踊りで、はい、一向いっこうにこれ、れませぬものだでな、ちょっくらばかり面をつけて見ます了見りょうけんところ ……根からお麁末そまつ御馳走ごちそうを、とろろも※(「魚+會」、第4水準2-93-83)なますちまけました。 ついお囃子に浮かれいて、お社の神様、さぞお見苦しい事でがんしょとな、はい、はい。

禰宜 ああ、いやいや、さような斟酌しんしゃくには決して及ばぬ。 料理かた摺鉢すちばち俎板まないたひっくりかえしたとは違うでの、もよおしものの楽屋がくやはまた一興じゃよ。 時に日もかげって参ったし、大分だいぶ寒うもなって来た。

序章-章なし
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多神教 - 情報

多神教

たしんきょう

文字数 17,788文字

著者リスト:
著者泉 鏡花

底本 海神別荘 他二篇

親本 鏡花全集 第二十六巻

青空情報


底本:「海神別荘 他二篇」岩波文庫、岩波書店
   1994(平成6)年4月18日第1刷発行
   2001(平成13)年1月15日第4刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十六巻」岩波書店
   1942(昭和17)年10月15日第1刷発行
初出:「文藝春秋」
   1927(昭和2)年3月
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2007年4月9日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:多神教

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