ひかりの素足
著者:宮沢賢治
ひかりのすあし - みやざわ けんじ
文字数:17,058 底本発行年:1986
一、山小屋
鳥の声があんまりやかましいので一郎は眼をさましました。
もうすっかり夜があけてゐたのです。
小屋の隅から三本の青い日光の棒が斜めにまっすぐに兄弟の頭の上を越して向ふの
土間のまん中では
「ほう、すっかり夜ぁ明げだ。」
一郎はひとりごとを
楢夫は目をつぶったまゝ
「起ぎろ、楢夫、夜ぁ明げだ、起ぎろ。」 一郎は云ひながら楢夫の頭をぐらぐらゆすぶりました。
楢夫はいやさうに顔をしかめて何かぶつぶつ云ってゐましたがたうとううすく眼を開きました。 そしていかにもびっくりしたらしく
「ほ、山さ来てらたもな。」 とつぶやきました。
「
一郎が云ひました。
「知らなぃ。」
「寒くてさ。 お父さん起ぎて又燃やしたやうだっけぁ。」
楢夫は返事しないで何かぼんやりほかのことを考えてゐるやうでした。
「お父さん
「うん。」
そこで二人は
外では谷川がごうごうと流れ鳥がツンツン鳴きました。
その時にはかにまぶしい
顔をあげて見ますと入口がパッとあいて向ふの山の雪がつんつんと白くかゞやきお父さんがまっ黒に見えながら入って来たのでした。
「起ぎだのが。
「いゝえ。」
「火ぁ
「うん。」