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銀河鉄道の夜

著者:宮沢賢治

ぎんがてつどうのよる - みやざわ けんじ

文字数:38,213 底本発行年:1980
著者リスト:
著者:宮沢 賢治
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一、午后(ごご)の授業

「ではみなさんは、そういうふうに川だと云(い)われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」 先生は、黒板に吊(つる)した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指(さ)しながら、みんなに問(とい)をかけました。

カムパネルラが手をあげました。 それから四五人手をあげました。 ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。 たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。

ところが先生は早くもそれを見附(みつ)けたのでした。

「ジョバンニさん。 あなたはわかっているのでしょう。」

ジョバンニは勢(いきおい)よく立ちあがりましたが、立って見るともうはっきりとそれを答えることができないのでした。 ザネリが前の席からふりかえって、ジョバンニを見てくすっとわらいました。 ジョバンニはもうどぎまぎしてまっ赤になってしまいました。 先生がまた云いました。

「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でしょう。」

やっぱり星だとジョバンニは思いましたがこんどもすぐに答えることができませんでした。

先生はしばらく困ったようすでしたが、眼(め)をカムパネルラの方へ向けて、

「ではカムパネルラさん。」 と名指しました。 するとあんなに元気に手をあげたカムパネルラが、やはりもじもじ立ち上ったままやはり答えができませんでした。

先生は意外なようにしばらくじっとカムパネルラを見ていましたが、急いで「では。 よし。」 と云いながら、自分で星図を指(さ)しました。

「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。 ジョバンニさんそうでしょう。」

ジョバンニはまっ赤になってうなずきました。 けれどもいつかジョバンニの眼のなかには涙(なみだ)がいっぱいになりました。 そうだ僕(ぼく)は知っていたのだ、勿論(もちろん)カムパネルラも知っている、それはいつかカムパネルラのお父さんの博士のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。 それどこでなくカムパネルラは、その雑誌を読むと、すぐお父さんの書斎(しょさい)から巨(おお)きな本をもってきて、ぎんがというところをひろげ、まっ黒な頁(ページ)いっぱいに白い点々のある美しい写真を二人でいつまでも見たのでした。 それをカムパネルラが忘れる筈(はず)もなかったのに、すぐに返事をしなかったのは、このごろぼくが、朝にも午后にも仕事がつらく、学校に出てももうみんなともはきはき遊ばず、カムパネルラともあんまり物を云わないようになったので、カムパネルラがそれを知って気の毒がってわざと返事をしなかったのだ、そう考えるとたまらないほど、じぶんもカムパネルラもあわれなような気がするのでした。

先生はまた云いました。

「ですからもしもこの天(あま)の川(がわ)がほんとうに川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの砂や砂利(じゃり)の粒(つぶ)にもあたるわけです。 またこれを巨きな乳の流れと考えるならもっと天の川とよく似ています。 つまりその星はみな、乳のなかにまるで細かにうかんでいる脂油(しゆ)の球にもあたるのです。 そんなら何がその川の水にあたるかと云いますと、それは真空という光をある速さで伝えるもので、太陽や地球もやっぱりそのなかに浮(うか)んでいるのです。 つまりは私どもも天の川の水のなかに棲(す)んでいるわけです。 そしてその天の川の水のなかから四方を見ると、ちょうど水が深いほど青く見えるように、天の川の底の深く遠いところほど星がたくさん集って見えしたがって白くぼんやり見えるのです。 この模型をごらんなさい。」

先生は中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸(とつ)レンズを指しました。

「天の川の形はちょうどこんななのです。

一、午后(ごご)の授業

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銀河鉄道の夜 - 情報

銀河鉄道の夜

ぎんがてつどうのよる

文字数 38,213文字

著者リスト:
著者:宮沢 賢治

底本 新編 銀河鉄道の夜

親本 新修宮沢賢治全集 第十二巻

青空情報


底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
   1989(平成元)年6月15日発行
   1994(平成6)年6月5日13刷
底本の親本:「新修宮沢賢治全集 第十二巻」筑摩書房
   1980(昭和55)年1月
入力:中村隆生、野口英司
校正:野口英司
1997年10月28日公開
2010年11月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:銀河鉄道の夜

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