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雪渡り

著者:宮沢賢治

ゆきわたり - みやざわ けんじ

文字数:6,395 底本発行年:1990
著者リスト:
著者宮沢 賢治
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序章-章なし

雪渡り その一(小狐こぎつね紺三郎こんざぶろう

雪がすっかりこおって大理石よりもかたくなり、空も冷たいなめらかな青い石の板で出来ているらしいのです。

堅雪かたゆきかんこ、しみ雪しんこ。」

お日様がまっ白に燃えて百合ゆりにおいきちらしまた雪をぎらぎら照らしました。

木なんかみんなザラメをけたようにしもでぴかぴかしています。

「堅雪かんこ、み雪しんこ。」

四郎とかん子とは小さな雪沓ゆきぐつをはいてキックキックキック、野原に出ました。

こんな面白おもしろい日が、またとあるでしょうか。 いつもは歩けないきびの畑の中でも、すすきで一杯いっぱいだった野原の上でも、すきな方へどこまででも行けるのです。 平らなことはまるで一枚の板です。 そしてそれが沢山たくさんの小さな小さな鏡のようにキラキラキラキラ光るのです。

「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」

二人は森の近くまで来ました。 大きなかしわの木はえだうずまるくらい立派なきとおった氷柱つららを下げて重そうに身体からだを曲げてりました。

「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。 狐の子ぁ、よめいほしい、ほしい。」 と二人は森へ向いて高くさけびました。

しばらくしいんとしましたので二人はも一度叫ぼうとして息をのみこんだとき森の中から

「凍み雪しんしん、堅雪かんかん。」 いながら、キシリキシリ雪をふんで白い狐の子が出て来ました。

四郎は少しぎょっとしてかん子をうしろにかばって、しっかり足をふんばって叫びました。

「狐こんこん白狐、お嫁ほしけりゃ、とってやろよ。」

すると狐がまだまるで小さいくせに銀の針のようなおひげをピンと一つひねって云いました。

「四郎はしんこ、かん子はかんこ、おらはお嫁はいらないよ。」

四郎が笑って云いました。

「狐こんこん、狐の子、お嫁がいらなきゃもちやろか。」

すると狐の子も頭を二つ三つって面白そうに云いました。

「四郎はしんこ、かん子はかんこ、黍の団子をおれやろか。」

かん子もあんまり面白いので四郎のうしろにかくれたままそっと歌いました。

「狐こんこん狐の子、狐の団子はうさのくそ。」

すると小狐紺三郎が笑って云いました。

「いいえ、決してそんなことはありません。 あなた方のような立派なお方がうさぎの茶色の団子なんかしあがるもんですか。 私らは全体いままで人をだますなんてあんまりむじつの罪をきせられていたのです。」

四郎がおどろいてたずねました。

「そいじゃきつねが人をだますなんてうそかしら。」

紺三郎が熱心に云いました。

「偽ですとも。 けだし最もひどい偽です。

序章-章なし
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雪渡り - 情報

雪渡り

ゆきわたり

文字数 6,395文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 注文の多い料理店

青空情報


底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
   1990(平成2)年5月25日発行
   1997(平成9)年5月10日17刷
初出:「愛国婦人」
   1921(大正10)年12月号、1922(大正11)年1月号
入力:土屋隆
校正:田中敬三
2006年3月22日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:雪渡り

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