雪渡り
著者:宮沢賢治
ゆきわたり - みやざわ けんじ
文字数:6,395 底本発行年:1990
雪渡り その一(
雪がすっかり
「
お日様がまっ白に燃えて
木なんかみんなザラメを
「堅雪かんこ、
四郎とかん子とは小さな
こんな
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
二人は森の近くまで来ました。
大きな
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。
狐の子ぁ、
しばらくしいんとしましたので二人はも一度叫ぼうとして息をのみこんだとき森の中から
「凍み雪しんしん、堅雪かんかん。」
と
四郎は少しぎょっとしてかん子をうしろにかばって、しっかり足をふんばって叫びました。
「狐こんこん白狐、お嫁ほしけりゃ、とってやろよ。」
すると狐がまだまるで小さいくせに銀の針のようなおひげをピンと一つひねって云いました。
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、おらはお嫁はいらないよ。」
四郎が笑って云いました。
「狐こんこん、狐の子、お嫁がいらなきゃ
すると狐の子も頭を二つ三つ
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、黍の団子をおれやろか。」
かん子もあんまり面白いので四郎のうしろにかくれたままそっと歌いました。
「狐こんこん狐の子、狐の団子は
すると小狐紺三郎が笑って云いました。
「いいえ、決してそんなことはありません。
あなた方のような立派なお方が
四郎がおどろいて
「そいじゃきつねが人をだますなんて
紺三郎が熱心に云いました。
「偽ですとも。 けだし最もひどい偽です。